浄化槽の清掃、維持管理などを行っている創業57年の「(有)大分浄化衛生工業所」(大分市、代表取締役社長・牧野新也さん、35歳)。広い社屋の中では、保護猫の「嵐(あらし)」(オス、2歳)をはじめ計10匹の猫たちが暮らし、社員さんや来訪者を癒している。牧野さんが前社長を引き継ぎ、3代目社長に就任したのち、経営方針の違いなどから古参社員が大量に辞めてしまい、会社は苦境に陥った。そんなとき会社を救ってくれたのは猫たちだったという。一体何があったのか?牧野さんに話を聞きました。
◇ ◇
牧野さん:私が猫を大好きになったのは、保護猫を飼っていた妻と結婚し、触れ合うようになってから。妻の両親が病気で相次いで亡くなり、天涯孤独になってしまった彼女は、路頭に迷ったりコンビニ袋に入れられ捨てられたりしていた身近な猫たちを助け、私と結婚したころは7匹の猫と暮らしていました。日々、猫たちに励まされ、支えられていたそうです。
8年前、前社長だった私の母が急逝し、私が急きょ会社を継ぐことになりました。2021年に結婚後、妻も会社を手伝うようになりました。その後、経営方針の違いなどから、母のもとで何十年も働いてきたベテランの社員さんたちと意見が合わなくなり、社員が次々に辞めてしまったんです。
仕事はあっても、人がいなければ会社は回りません。社員を募集しても、きつい仕事なのですぐに辞めてしまうことが多く、この先どうしたらいいのか、打開策が見つからず途方に暮れました。そんなとき私たちを救ってくれたのが、1匹の保護猫だったんです。
その子の名前は「嵐」。同業者の敷地内で保護され、私たちが引き取った生後2カ月の人なつこい子でした。会社にきた翌日、新入社員らしからぬ仰向けの格好で寝る姿がとても可愛くて。その動画をSNSに投稿したんですよ。そうしたら、なんと197万回も再生されたんです。
それまでも、自宅の猫たちを会社に連れていったり、会社前の神社で保護した子たちの動画を投稿したりしていたんですが、注目を集めることはありませんでした。嵐のその動画がバズったことがきっかけとなり「そちらで働きたい」という猫好きさんからの求人応募がたくさんきて人材不足が解消しました。さらに「動画を観た」という法人様から新規の取引依頼なども入るようになって。私たちは息を吹き返し、経営が安定するようになったんです。
最近ではラジオや新聞などの取材も受け、SNSのフォロワーさんも1万6千人を超えて「猫がいる浄化槽の会社」として全国に知られるようになりました。取引先やお客さんもSNSをみてくださっているので、「今日も猫たち、元気そうだね」と話が盛り上がることもよくあります。もし猫がいなければ、こんなふうにはなっていなかったと思うと、本当に猫たちには感謝しかありません。
現在、会社には自宅にいた7匹と会社近くで保護した子を合わせ計10匹がいます。猫がいることで、職場の雰囲気はすごくいいです。猫好きの社員ばかりなので、出勤前や仕事が終わったあと、休憩所で猫たちとひととき遊ぶのが日課になっています。取引先などのお客さんが来られても場が和みますし、仕事の話が終わってなかなか帰られない方もいます(笑)
なにより猫たちのおかげで、社員同士の仲がすごくいいです。いま、私と妻、社員13人の計15人がいますが、全員が交代で世話をしています。トイレ掃除係、朝のごはん係、夕方のごはん係、おやつ係など、それぞれ担当を持っています。もしご飯を食べない、水を飲まない、便が出ていないなど、体調不良の子がいたら誰かが気づきますし、かかりつけの動物病院が2つあるので、すぐに連れていきます。
特に嵐は、保護される前、交通事故にあった疑いがあり、骨盤が歪んでいて、便が出づらいんですよ。なので、ほぼ毎日、薬を飲まないと便秘気味になってしまうので、みんなで気をつけています。
弊社が扱っている浄化槽というのは、一般的にはあまり知られていないかもしれませんが、一言でいうと、トイレや台所などから出る生活排水を、微生物の働きを利用してきれいにし、川などに放流する処理施設のこと。公共下水道が整備されていない地域の戸建てや事業所に設置します。環境にやさしく地震などの災害にも強い、素晴らしいシステムだと思っています。猫たちの日常を紹介しながら、浄化槽のことをもっと紹介していけたらと思っています。
私たちにとって猫は、会社の発展を見守り、支えてくれる大切な存在。縁あって出会った10匹の保護猫たちがこれからも元気で幸せに過ごせるよう、社員全員で力を合わせていくつもりです。
【会社名】「有限会社 大分浄化衛生工業所」
【住所】大分県大分市松原町3-5-6
【インスタグラム】@joka_yurutto