2025年7月3日、人里離れた峠道でガリガリに痩せた猫が保護されました。片目の眼球が飛び出し、鼻からは血が…交通事故に遭って瀕死状態でした。通勤途中、その猫に目が留まったInstagramユーザー・アズエスミさん(@azethmi)は、あわてて車を止め、猫のもとへ。それが、推定1歳の女の子「桜猫(さくらねこ)」ちゃんとの出会いでした。
「ね、猫か!?」 運転中、目に飛び込んできた“黒い影”
出勤途中の峠道で、飼い主さんは道の真ん中に落ちている黒い影に気づきました。一度は通り過ぎたものの気になり、車を止めて戻ったところ、それが生きている猫であることがわかります。
「『猫か?』と半信半疑ながら車を止めました。黒い影があった場所まで歩いて戻ると、桜猫ちゃんがうずくまっていたんです。『生きてる! 大変だ』と思い、写真を撮って家族に送り、電話をしました」
今すぐにでも動物病院へ連れて行きたい、でもその日は飼い主さんにとって重要な仕事があり、どうしても出勤しなくてはなりませんでした。
「母と電話口で、どうしようと話し合いながら、車の中に何か保護できるようなものがないかと探しましたが何もなく…『とりあえず、道の端っこに移動できない?』と母から言われて、やってみることにしたんです」
手袋をしてそっと脇に移動させることに成功。桜猫ちゃんは「シャーッ!」と威嚇し、怯えていたといいます。
「体から腐敗臭のようなニオイがしていました。トラックが横を通るたびにびくびくしているものの歩こうとはせず…そんな様子を見て『動けないのかもしれない』と思いました」
昼間は気温が上がり、暑くなるため、このまま放っておいては命を落としてしまう―。ただ、仕事に遅れることはできない。飼い主さんが葛藤するのを見かねた家族が手を差し伸べました。
「妹に背中を押された母が、保護しに来てくれることになったんです。私は、いったん職場へ。そのあと、母が桜猫ちゃんを無事に保護し、病院へ連れて行ってくれました」
「治療後、どうしますか?」獣医師からの問いかけ
桜猫ちゃんは、病院で検査を受けたところ、片目の眼球が飛び出し、アゴも骨折。胃腸には食べ物がなく飢餓状態であることがわかりました。
「極度の貧血であることもわかりました。目や骨折の治療はもちろんですが、衰弱が激しく、いつ命を落としてもおかしくない状態だったため、体調の回復を最優先に治療が進められていきました」
飼い主さんは、その日の夕方、家族と一緒に桜猫ちゃんのお見舞いに行くことに。その準備をしているとき、病院から電話がありました。
「私はその日の仕事を無事に終えることができたので、翌日は桜猫ちゃんの様子を見守りたいと思い、休みをとりました。お見舞いに行こうとしたところ、病院から電話が来て『液状のものであれば摂取できるようです』と。急いで、液状タイプの総合栄養食を購入し、病院へ行きました」
それからは、桜猫ちゃんに顔を覚えてもらうため、朝晩2回、毎日病院へ通ったといいます。
「先生から『この子はいい子ですよ』『体も、ご飯を食べるときも死ぬほど痛いだろうに頑張ってます』と言われました。食欲旺盛だったのが何より安心しましたね」
こうして、桜猫ちゃんは治療のかいあって、少しずつ回復していきました。ある日、医師から「治療をしたあと、どうされますか?」と聞かれた飼い主さんは―。
「家族であらたまって話し合いはしていませんでしたが、みんな『うちで迎えます』と即答しました。それ以外の選択肢はない。誰もがそう思っていたんです。保護した以上、たとえ日常的に介護が必要な状態になったとしても、我が家で終生、お世話をしよう。家族みんなの気持ちがひとつになっていました」
視力は失ったけれど元気に…先住猫たちの“仲間入り”
一時は、生死を彷徨う状態だった桜猫ちゃんは、驚くほどの生命力をみせて順調に回復。飼い主さんが思っていたよりもずっと早く退院できることになりました。
「先生から『明日にでも退院できますよ』と言われて慌てました(笑)。退院は1日延ばしてもらい、猫用ケージを早めに譲ってもらうことに。さらに、まだ段差があると負担がかかる状態だったため、板を使ってケージを平屋仕様にしました。木工が得意なので役に立ったなと思いましたね」
こうして、飼い主さんの家に迎えられた桜猫ちゃんですが、日常的なケアはまだまだ続きました。
「入院中は、眼球が飛び出て目が閉じられなかったため、乾燥を防ぐために目薬をしてもらっていました。退院後は、それを家族で交代しながら続けたんです。みんなでケアの履歴を共有できるように手帳を用意して、目薬をした時間はもちろん、ご飯を食べた時間も記入しました」
当初は、2種類の目薬を1日に10回点眼していました。さらに、目やアゴの手術を受けたあとは、アゴを固定するためのワイヤーを入れていたため、やわらかいご飯を1日5食、家族で協力しながらお世話をしていたといいます。
「3カ月以上は、術後カラーをつけた暮らしが続きました。目薬を頑張ってくれたかいあって、片目の視力は失ったものの、目を閉じることができるように。当初は、角膜潰瘍や眼球を摘出しなければならない可能性もあったので、本当に良かったです」
飼い主さんの家には、先住の保護猫たちが暮らしています。そのため、桜猫ちゃんのお世話に戸惑うことはなかったといいます。
「『ちゃんとトイレを覚えてくれるかな?』という心配はありましたが、杞憂に終わりました。先住猫たちは、桜猫ちゃんに興味津々といった様子でしたが、とくに怒ることはありませんでした」
桜猫ちゃんもまた「この家には、猫がいるんだな」と、すんなり受け入れた様子。「まったく猫見知りしませんでした」と、飼い主さんは語っています。
人間も猫も大好き! 甘えん坊になった桜猫ちゃん
衝撃的な出会いから9カ月。体の痛み、そして恐怖から「シャー!」と威嚇していた桜猫ちゃんは、今、家族に囲まれ、すっかり甘えん坊になりました。
「人でも猫でも関係なく、自分からぐいぐい甘えに行きます。末っ子の特権なのか、兄猫や姉猫たちからは何だかんだ許されていて、得な性格だなと思いますね(笑)。ご飯が大好きで、運動神経抜群。片目しか見えないはずですが、距離感をきちんとつかんでとんだり、跳ねたりするのを見るとすごいなと思います」
桜猫ちゃんとのことを振り返った時、飼い主さんが印象に残っているのは入院中、お見舞いに行ったときのことです。
「当日、診察をしてくださる先生だけでなく、ほかの先生や看護師のみなさんも桜猫ちゃんの様子を見るために集まっている光景をよく目にして『人気者だな』と思ったのを覚えています(笑)。わずか1週間ほどの入院でしたが、病院のみなさんが一丸となって桜猫ちゃんの治療やケアをしてくださっていることが伝わってきて、感謝の気持ちでいっぱいになりました」
今は、飼い主さんのおうちで“猫団子”のひとつとなって、先住猫とともに過ごしている桜猫ちゃん。「どうか、生きて」。飼い主さんから始まった命のリレーは、桜猫ちゃんを大きな愛情で癒やし、“ずっとのおうち”へと導きました。
「生きていて、元気でいてくれて本当にありがとう。これからは安心して暮らしてね。そう伝えたいです」