聞こえにくい人には耳に顔を近づけ、流ちょうな日本語で語りかける。「大丈夫? 痛くないですか」。優しくほほ笑み、車椅子から高齢女性の体を起こす。
インドネシア出身のアルフィ・シャフリンさん(34)は、京都府京丹波町の特別養護老人ホーム「瑞穂山彦苑」で働く。認知症の利用者は返事が返ってこないこともあるが、「真心を込めて接すると、言葉はなくても、ありがとうという気持ちが自然と伝わってきます」とやりがいを口にする。
介助を受ける80代女性は「知らない言葉を尋ねると、スマホでサッと調べてくれる。私の先生」。日本人の同僚は「利用者の病名も漢字で教えてくれる」と感心する。
施設ではインドネシア8人、ベトナム4人、フィリピン4人、ミャンマー2人の計18人が働き、日本人の10人を上回る。舩山永二施設長(55)は「アルフィさんは新しいスタッフに文化の違いなど丁寧に教えてくれる。外国人スタッフのリーダー」と信頼を寄せる。
政府は、2022年度の実働数を基に26年度は介護職員が25万人不足すると推計している。地方の人手不足はより深刻で、丹波地域の別の事業者は「地元で求人を出しても応募はない。職員の高齢化も悩みの種だ」。
瑞穂山彦苑はいち早く海外人材の獲得にかじを切った。運営法人の櫻井博規理事長は「給料も日本人と同等に支払い、差別はしない」と話す。アルフィさんのようなイスラム教徒は夜明けから日没までの断食があるが、その間は体力的に負担のかかる入浴介助などは最小限にし、各国文化に合わせた対応をしている。 海外で働きたいと考えていたアルフィさんは親から「日本は安全で、介護の仕事は需要が高く安定している」と勧められ、日本行きを決めた。
2008年にインドネシアと日本が締結した経済連携協定(EPA)に基づく制度で、介護福祉士候補として12年に来日した。岡山の介護施設で働いて17年に帰国し、20年に特定技能の資格で再来日。21年に同施設に就職し、翌年に介護福祉士の試験に合格した。
19年に始まった特定技能による在留外国人は、介護分野でみると、丹波2市1町で3年前の17人から25年は471人に急増。少子高齢化で、製造業や農業でも欠かせない人材になっている。
日本になじむアルフィさんも来日当初は戸惑った。イスラム教の戒律により調理されるハラル食材はスーパーになかったが、今はネットで購入できるようになった。1日5回の礼拝も夜勤時は、時間をずらして行う。
地域活動にも積極的に参加する。昨年10月、南丹船井自衛消防隊連絡協議会の消火訓練大会で、外国人として初めて消火器操法の部で優勝。「日本人よりも声が出ている」と評価された。
17年に同じ国の同僚ディアさん(36)と結婚し、5歳の息子と2歳の娘を授かった。子どもが通うみずほこども園(和田)で、日本の子たちとはしゃぐ姿を見ると、自然と心が癒やされる。現在、同園では55人中、外国籍の園児が7人いる。
日本での生活を続けたいと考えるが、不安もある。最近、外国人への厳しい見方を伝えるニュースを耳にする。特に子どもの将来を案じ、「外国人といってもみな違う。個人として判断してほしい」と切に願う。
それでも「ここは人が優しくて温かい」と母国同様の安らぎを感じる。「冬が寒すぎることだけがつらいけど」といたずらっぽく笑った。