昨今では、さまざまなアイドルが活動しています。では、そんなアイドルたちの中に「絶対信じられるアイドル」は存在するのでしょうか。漫画家の伊田チヨ子さんの作品『まりん信じられる』では、近未来を舞台にしたひとりのアイドルの半生を描いています。
物語は、古びた洋館を掃除ロボットが掃除していく場面から始まります。館内の掃除中、ロボットが偶然見つけたビデオデータを再生すると、それはかつて絶大な人気を誇ったアイドル「井上まりん」のドキュメンタリー映像でした。
笑顔で歌い踊るまりんに、会場を埋め尽くすファンは歓声をあげます。多くの人から愛されているまりんでしたが、ネットの掲示板では「先週のチェキ会での写真と4年前のチェキ会での写真を見比べると、俺だけがしっかり老けててゾッとした」など、ずっと変わらない見た目への声が散見されていました。
これには理由があり、実はまりんはロボットだったのです。まりんの開発者でありマネージャーでもあるスミレは、学生時代に「ロボット工学三原則」とアイドル文化の親和性を掛け合わせ、「絶対に信じられるアイドル」としてまりんを誕生させました。瞬く間にトップアイドルになったまりんは、ライブで後方のファンまで目のズームカメラでしっかり見つめるほど、誰よりもファン想いのアイドルとなったのです。
しかし、そんなまりんに週刊誌の熱愛報道が出てしまいます。まりんはロボットであり、彼氏はいません。ただ、まりんと一緒にいるところを撮影された人が、まりんのメンテナンス担当者だったことが問題なのです。もしこの記事に反論してしまうと、相手が誰だったのか世間に伝わってしまうことも考えられ、それはつまり、まりんがロボットであることが世間に知られてしまう危険性にもつながります。
そこで、まりんの正体を知るスミレとアイドル事務所の社長は、アイドルを引退するか、まりんのボディを大人用に改造するために2年の休業をするか、考えをめぐらせます。そして検討の結果、まりんは週刊誌の報道内容を謝罪し、無期限で休業することを、最後のライブで発表することになりました。
そして迎えたライブで、まりんは社長やスミレが命令した「謝罪」を行わず、報道が誤報であることを明言すると、いつものように楽しいライブを始めます。これは「ロボットが人間に危害を加えてはならない」という原則を逆手に取り、ファンを傷つけないために、まりんが独断で行ったことなのです。
しかし、これで問題解決とはならず、ライブ中に事件が起きます。観客席の中に週刊誌の記者が潜んでおり、まりんがロボットではないかと疑っていた彼は、まりんに向かってレーザーポインターを向けるのでした。この行動は、ロボット三原則のひとつである「ロボットは、自己を守らなければならない」により、まりんを過剰な防衛行動へといざないます。
身体が勝手に迎撃態勢になろうとする中、まりんはその変化を必死に抑えるため、よろめくのでした。それを見た観客は「スタンド席に武器を持った奴がいる!」と声をあげ、大騒ぎに。そしてこの混乱のはずみで、機材が観客のひとりである女性ファンに直撃してしまいそうになります。
その瞬間、よろめいていたまりんの背中から飛行機のような翼が生え、彼女は女性ファンをかばって、自らが機材の下敷きになってしまうのです。その後、機材の下から出てきたまりんは、腕や顔の人工皮膚がはがれ、中の機械部分が見えてしまう状態でした。そこでファンたちは初めて、まりんの正体を知ります。
その後、まりんは「ごメンねみンな、マリん、嘘ついてタの」と泣きながら「私はロボット」と告白します。そして「こコで見たことヲネットに書イテください。まりんは嘘つキだっテ…」と続けるのでした。しかしライブ会場にいたファンたちは、まりんの秘密をインターネットに書き込むことはなく、「まりんちゃん、一生信じられる!」と応援します。
それから2年後、あの事件をきっかけに表舞台からひっそりと姿を消していたまりんは、少し大人びた姿になり、満員の会場へと戻るのでした。ラストシーンでは、このドキュメンタリー映像を見終えた掃除ロボットが月明かりの下、まりんのように楽しそうに踊る姿で物語は幕を閉じます。
読者からは「ロボットがまねして踊ってるのかわいい」「まりん最高」など、さまざまな声があがっています。そこで同作について、作者の伊田チヨ子さんに話を聞きました。
アイドルとファンは相互に支え合っていく存在であってほしい
――同作を描こうと思われたきっかけがあれば教えてください。
古典的な設定や物語の型から換骨奪胎して作品を作ることが好きなので、アイザック・アシモフのロボット工学三原則という古典的なルールを使って、描いてみようと思いました。
そこに現代日本らしい文化として、アイドルを組み合わせてみたのが『まりん信じられる』です。
――まりんというキャラクターを描くうえで、大切にされたポイントがあれば教えてください。
まりんはあくまでオタク(マネージャーであり学者のスミレ)が開発したロボットなので、スミレのオタク的なこだわりにより、とことん人間らしく振る舞っています。
半面、ファンの姿が見たいあまり、瞳のレンズのズーム機能を使ってしまうというロボットらしい行動もしてしまう。
でも、どちらの行動も結局は「アイドルが大好き」「応援してくれるファンのことが大好き」が根っこにある、そこをブレないようにして描きました。
――同作制作にあたり、特に意識された点を教えてください。
とにかく、まりんをかわいく描こうと意識しましたね!(笑)
昨今は推し活といった言葉が生まれたり、アイドルとそのファン文化に対して、さまざまな意見が交わされています。
ただ、この作品世界の中においては、頑張るアイドルとファンは相互に支え合っていく相思相愛な存在であってほしいという私の夢を詰め込みました。
<伊田チヨ子さん関連情報>
▽連載作品『東京ステッキガール』(コミックDAYS)
https://comic-days.com/episode/14079602755567610256
▽書籍『東京ステッキガール』(Amazon)
https://amzn.asia/d/00GabLvd
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