介護中の母の対応に追われ、デートを何度もドタキャンしたり、デート中も母への対応を余儀なくされた結果、彼に別れを告げられた佳菜子さん(仮名)。都内の出版社で経理事務として働く41歳です。過去には、ランチデートの間に母親から10回も電話がかかってきてしまい、相手が気分を害して帰ってしまった…なんてこともありました。
3年前から認知症を患う母親(65歳)と二人暮らしをしています。母親は要介護2で、デイサービスを週3回利用しているものの、夕方以降の食事や服薬管理は佳菜子さんが担っています。婚活アプリに登録し、何度かデートの約束をしましたが、母親の体調不良で直前キャンセルすることが続きました。「結婚したい気持ちと介護の責任、どちらも諦めたくない」。そんな苦い経験を持つ人は佳菜子さんだけではありません。
実は今、介護中でも恋愛をあきらめない新たな出会い方が注目を集めています。婚活イベントやマッチングアプリで、介護と恋愛を両立させる40~50代が増えているのです。
介護が原因で恋愛を諦める50代は多い?
介護によって恋愛をあきらめる人は、40~50代に多く見られます。それは、介護が生活の中心になりやすく、恋愛の優先順位が下がるからです。
・親の介護で自分の時間が取れなくなる
・急な呼び出しでデートや連絡に支障が出る
・相手に迷惑をかける不安から自信がなくなる
こうした状況が続くと、恋愛を続ける自信が持てなくなってしまいます。恋愛に必要な「余裕」や「自由さ」が、介護によって奪われている状態なのです。
▼50代独身者の介護経験と恋愛断念の実態
40~50代の多くが、介護を経験しているとされており、婚活と親の介護の両立に悩む声も多数あります。その背景には、介護に費やす時間の多さや、介護と仕事の両立による疲労があります。気力も体力も削られた状態では、新しい恋や婚活を始める余裕がありません。日々の生活に追われる中で「恋愛どころではない」という気持ちになってしまうのが現状なのでしょう。
▼介護が恋愛に与える心理的ハードル
介護が恋愛に与える影響は、物理的な時間だけではなく、心理的なハードルも大きな障壁になります。「デート中に母から10回も電話がかかってきて、彼に振られた」というような、佳菜子さんのような経験は、介護者にとって珍しいことではありません。こうした出来事は「自分は恋愛に向いていない」「相手に申し訳ない」といった自己肯定感の喪失につながります。
また、介護のことを相手にどのタイミングで伝えるべきか迷い、それ自体がストレスになるケースもあります。恋愛が「楽しみ」ではなく「負担」になることで、さらに恋愛から遠ざかってしまうのです。
介護者の新しい出会いの形から生まれたカップル事例
そんな中最近は、結婚相談所の入会やオンラインお見合いの参加で、40〜50代の出会いが生まれるケースも多数あるようです。
出会う前からお互いの状況を知らせておくことで、心理的負担も少なく認識のすり合わせもしやすいといいます。現実を共有したうえでの恋愛が可能になりつつあるのです。
①結婚相談所の入会|参加の心理的負担が少ない
結婚相談所は、事前に相談所のアドバイザーと現況を共有することで、新たに出会うお相手にもそれとなく伝えてくれるケースが多いようです。また、価値観の近い方同士を紹介することで、自然と会話が弾み、結婚まで至った事例があるといいます。
この事例について、お互い50代同士で介護経験のある、岸本さん(仮名)ご夫婦の事例を紹介します。
岸本さんご夫婦は、結婚相談所についてこう語ります。「介護していることを隠す必要がなかった」「かえって話題に困らない」「介護を共有することで信頼感につながった」といった安心感があったようです。
普通の婚活では話しづらい介護の話も、同じ境遇同士なら自然と会話が弾みます。共通の悩みを共有することで、初対面でも距離が縮まりやすいのが特徴です。
②オンラインお見合いの参加|認識のすり合わせがしやすい
オンラインお見合いの中には、事前に介護状況を共有できるサービスが多数あります。あらかじめ介護について伝えられるため、カップル成立後の認識のすれ違いが起きにくくなります。
そんなオンラインお見合いで出会い結婚された山本さん(仮名)ご夫婦。「オンラインお見合いは認識のすり合わせがしやすく、最短で結婚できた」と語ります。また「週末は介護で外出できない」「急な対応があるかもしれない」といった現実を受け入れてくれる人とだけ関係を深められるのは、恋愛に対する心理的負担も少なくすんだと言います。
最初から理解のある人とだけやりとりできるため、無理せず恋愛を続けやすくなります。
現実を共有できる相手となら、安心して関係を深めることができるのです。
介護と恋愛を両立するためのコツ
介護と恋愛を両立させるには、いくつかの工夫が必要です。ポイントは「介護サービスの積極的な利用の検討と、完璧を目指さないスタンス」と「恋人や周囲と話し合い・考えの共有」です。
▼完璧を目指さないこと(介護サービスの利用の検討)
まずは介護にかける時間と労力を見直し、地域包括支援センターに、どのような介護サービスやシステムがあるのかを聞いてみましょう。一人で介護の全てを完璧にこなそうとしないことも、日常生活を円滑に送るためには、大切な指標です。
▼周囲と話し合い・考えの共有
また、周囲の人々と介護の現況の共有をすることも大切です。親の認知症や身体介護を必要とする状況は、隠すべきことでも恥ずかしいことでもありません。病気や障害は周囲に伝え、理解と協力を得ながら社会で生きていく時代なのではないでしょうか。家族会などで情報交換をしつつ、まずは身近な人に現状や悩みを共有しましょう。
交際する相手に対しても、あらかじめ「〇曜日は介護がある」と伝えておくことで、相手も予定を調整しやすくなります。会う回数は少なくても、誠実なやりとりを積み重ねれば信頼は育ちます。
さらに、このように信頼関係を積み重ねていき、隙間時間に共通の趣味や価値観を見つけることで、限られた時間の中でも充実した関係を築くこともできます。
介護は恋愛の障害ではなく共通の理解基盤と捉え直す
介護を「恋愛の障害」と感じてしまうのは自然なことです。一方で、同じ悩みを抱える人がたくさんいるというのは、視点を変えれば「共通の理解基盤」にもなり得るということです。
「介護の大変さを知っているからこそ、相手の苦労を思いやれる」という関係性は、通常の恋愛では得られにくい特別なつながりとも言えるでしょう。恋愛は「楽しい」だけでなく「助け合うこと」も大切な要素です。
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。