専業主婦のAさん(30代)は夫と2人で暮らしており、夫婦仲はとても良好です。しかしAさんは夫に1つだけ不満を抱いていました。それは外出先から帰宅した時の行動です。
Aさんの夫は営業職で、毎日電車や車を使って多くの企業に訪れています。しかし夫は家に帰る時に絶対にうがいをしてくれません。手は必ず洗っているため、インフルエンザなどの感染症対策をする意識はあるはずなのに、なぜうがいをしてくれないのかAさんは不思議に思っていました。
そこでAさんは、今後子どもができるかもしれないことを考え、夫に「帰宅時にはうがいもしてほしい」と相談します。すると夫は「うがいは嫌いなんだ…それに海外ではやっていないし、感染症対策としてうがいは無意味だよ」と反論されてしまいます。
調べてみると、たしかにうがいは日本独自の文化だったのです。そして海外では水質の問題や、人前でガラガラと音を立てて水を吐き出す行為がマナー違反である国もあり、ほとんど習慣化していません。
では日本では当たり前に知れ渡っている『うがいによる病気予防』は、医学的に見て意味があるのでしょうか。半蔵門 渡海消化器・内視鏡クリニック院長の渡海義隆さんに話を聞きました。
うがいは手洗いなどの基本の感染対策にプラスして取り入れる予防
―医学的な観点から見て、うがいに風邪を予防する効果は証明されているのでしょうか
一定の効果を示した研究はありますが、「確実に予防できるとまでは言い切れない」というのが現状です。
日本で行われたランダム化比較試験では、健康な成人を対象に水うがいの有用性を検討しており、水うがいを継続した群で、しない群と比較して上気道感染(いわゆる風邪)の発症が少なかったと報告しています。(Satomura K, et al. Am J Prev Med. 2005)
ただし、この分野での研究数は多いとは言えません。またうがいの回数や方法、評価する風邪の定義などが研究ごとに異なるといった点もあります。そのため現時点では「風邪の予防に有用性が証明されている」とは言い切れず、「手洗いなどの基本の感染対策にプラスして取り入れる方法」として理解するのがよいでしょう。(Satomura K, et al. Am J Prev Med. 2005)
―新型コロナウイルス(COVID-19)に、うがいの効果はありますか
うがいで新型コロナ感染を予防できるという根拠はありません。WHO神戸センターはX(旧Twitter)で「うがい薬で新型コロナ感染を予防できる科学的根拠はない」と明確に述べています。
また「高張食塩水の鼻洗浄+うがい」を検討したRCT(ELVIS COVID-19)は、主に“予防”ではなく発症後の症状経過を評価した研究ですが、症状消失までの時間に差は出ておらず、現時点で予防策として推奨できる根拠にはなっていません。(Yusuf OM, et al. J Glob Health. 2024)
―ではインフルエンザでは、うがいの効果はあるのでしょうか
インフルエンザについても、うがいの予防効果は公的資料で「未だ確立されていない」と整理されています。(厚生労働省「新型インフルエンザ対策行動計画(見直し案)」)
そのため、対策の中心はワクチン、手指衛生、換気、咳エチケットで、うがいはおこなうとしても補助的な位置づけです。(Yusuf OM, et al. J Glob Health. 2024)
―風邪を引かないために、大切なポイントを教えてください
手からの持ち込みを減らすことと、吸い込む量(曝露)を減らすことです。
手洗いは呼吸器感染を約20%減らし得るとされ(CDC. Handwashing Facts. 2024)、日常で取り組みやすい基本対策です。
また、換気も重要です。CDCは換気・外気導入・空気清浄などで「きれいな空気」を増やすことを推奨し、目安として1時間あたり5回相当の実施を挙げています。(CDC. Taking Steps for Cleaner Air… 2025)
状況に応じてマスクも有用で、顔にフィットするものを選ぶのがポイントです。(CDC. Masks and Respiratory Viruses Prevention. 2025)人混みや換気の悪い場所など、リスクが高い場面で追加するとよいでしょう。(Jefferson T, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2023)。
うがいは必須ではありませんが、基本対策をおこなったうえで、水うがいを追加する程度の位置づけがよいでしょう。ただし、高齢者など嚥下機能が落ちている方では、むせ込み・誤嚥のリスクがあるため無理に勧めない配慮が必要です。
◆渡海義隆(とかい・よしたか)
半蔵門 渡海消化器・内視鏡クリニック院長。日本内科学会認定内科医、日本消化器病学会専門医。長年消化器治療・がん治療を専門としており、AIを用いた食道がん・胃がんの研究などに携わる。見落としを極力減らした、精度の高い内視鏡検査を得意としている。▽半蔵門 渡海消化器・内視鏡クリニックホームページhttps://www.tokai-naishikyo.com/