中堅企業の営業事務として10年務めているAさんは「ミスのない入力」を誇りに生きてきました。しかし最近、業界でのAI活用やDXの話題が増える中で、転職活動をしているAさんは「事務職など誰がやっても同じであり、自分の代わりなどいくらでもいるのでは…」と、不安がよぎります。
その後、気を取り直して職務経歴書を書こうとするも、「アピールポイント」欄に書ける内容が何も見つからなかったことで、この不安はさらに強まっていくのでした。正確な入力も、丁寧な電話対応も、単なる作業であり市場価値などないと思い知らされました。
Aさんは、積み上げた10年間が音を立てて崩れ去るような恐怖と孤独感に苛まれます。この閉塞感をどうすれば打破できるでしょうか。キャリアカウンセラーの七野綾音さんに話を聞きました。
目の前の仕事を点で捉えていないか?
ー自分の仕事を「誰でもできる地味な作業」と思い込んでしまうのはなぜでしょうか?
日々の業務に集中するあまり、目の前の仕事を「点」としてしか捉えられなくなり、その仕事が生み出している影響の連鎖が見えにくくなっているからではないかと考えます。
「3人のレンガ職人」という有名な話があります。1人目の職人は自分の仕事を「レンガを積む作業」としてしか見ていないため、仕事がつらく地味に感じます。2人目は「お金を稼ぐ手段」として見ています。しかし、3人目は「歴史に残る大聖堂を造り、人々を癒やす」という目的を持って働いています。
事務職の方も同様です。ただの「入力」「チェック」「連絡」といった点として仕事を捉えると「誰でもできる」と感じますが、そのデータが会社の意思決定を支え、製品を通じて世の中(社会)にどう貢献しているかという「面」で捉え直すと、仕事の価値は劇的に変わります。
ーAI時代でも生き残れる、「コアスキル(ポータブルスキル)」とは何でしょうか?
人口減少が進む中、AIやシステムが進化することで、定型的な作業の多くが代替されていくのは事実です。そのうえで人に求められるのは、「与えられた指示を正確にこなす力」そのものではなく、業務の背景を理解し、次の行動を想像できる力だと考えます。
例えば、「このデータを入力して」と言われた際、「この数字はどの会議で、誰が、何の判断に使うのか」を想像し、「昨年との比較表もあれば意思決定がしやすいのではないか」と考えて準備する。
このように、求められた「1」に対し、「1.5」や「2」で返す働きは、これからの世の中に求められるポータブルスキルではないかと考えます。
ー自分の経験を棚卸しし、強みを見つけるためには何をすべきですか?
まず、自社のビジネスモデルと業界での立ち位置を理解します。『何を提供して、どんな価値を生み出しているか』を把握することで、自分の役割が全体の中でどう機能しているかが見えてきます。
その上で、バックオフィスとして自分がどう支えてきたかを振り返ってください。「業界の法改正に対応するために、いち早く社内規定を整備して現場の混乱を防いだ」など、会社の動きとリンクさせることで、単なる事務作業が「経営課題を解決した経験」へと昇華されます。
ー転職活動の際、採用担当者に響くように伝えるコツはありますか?
「コミュニケーション能力があります」や「調整力があります」といった抽象的な言葉だけでは、採用担当者には響きません。
重要なのは、
1.どんな状況で
2.何に気づき
3.どんな行動を取り
4.どんな変化が起きたのか
を具体的に語ることです。
例えば、「営業が忙しそうだったから手伝った」ではなく、「営業資料のチェックを自発的に行い、誤りに事前に気づいて修正し、結果として提案準備の時間短縮に繋がった」と伝えることで、初めてスキルとして認識されます。
「言われたことをこなした」ではなく、自分なりに考えて動いた経験こそが、AI時代に評価される強みになります。
◆七野綾音(しちのあやね)キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント
やりがいを実感しながら自分らしく働く大人を増やして、「大人って楽しそう!働くのって面白そう!」と子ども達が思える社会を目指すキャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント。