営業部門で課長を務めているAさんは、部下のBさんの素行について悩みを抱えていました。20代の彼は明るく優秀ですが、スマートフォンを手放せません。デスクで通知が来るたび、あるいはトイレに立つわずかな時間にも、彼は器用にSNSをチェックし、メッセージに返信していました。
半年後の評価面談の日、AさんはBさんに対して就業中のスマホ利用の多さを指摘します。Bさんは「ほんの数分です」と弁解しようとしたものの、積み重なった「数分」がそれなりの時間になっているのではないかと伝えると、言葉を失っていました。
では実際に、Bさんのような勤務中の私的なスマホ利用はどこまで許されるのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。
給与明細に響く? スマホを触っている時間は「無給」が原則
ー従業員には「職務専念義務」があると聞きますが、法的にどの程度のものですか?
労働者は労働契約に基づき、勤務時間中は職務に専念する義務を負います。これを「職務専念義務」と言い、会社の就業規則や服務規律に明記されていることがほとんどです。
ただし、「一息も抜かずに働き続けなければならない」というものではありません。社会通念上、業務に支障をきたさない範囲での短い私語や、水分補給、トイレのための離席などは、この義務に違反するものではありません。
ー私用スマホの利用がこの義務に違反すると判断されるのは、どのような場合ですか?
ポイントは「業務への支障」と「時間や頻度」です。例えば、ご家族の緊急事態に備えて連絡を待つといった必要性のあるケースは許容される可能性が高いでしょう。
しかし、長時間にわたる動画視聴やSNSの閲覧、ゲームなどは、明らかに業務とは無関係であり、職務専念義務に違反すると判断されます。たとえ短い時間であっても、その頻度が高く、業務に支障をきたしていると客観的に判断されれば、問題視されることになります。
ただし、どのような理由であれ、私的にスマホを使用している時間は業務を遂行していないわけなので、原則として会社はその時間分の報酬を支払わなくても構いません。
ー会社が従業員の私用スマホ利用を理由に、注意・指導することはできますか?
当然できます。ただし、その方法には注意が必要です。まず最も重要なのは、憶測ではなく客観的な事実に基づいて指導することです。「〇分間、席を離れていましたが何をしていたのですか?」というように、まずは事実確認から入るべきです。
トイレの中まで様子をうかがったり、本人の許可なくスマートフォンの内容を見せろと強要したりすることは、プライバシーの侵害にあたる可能性があり、不適切な指導とみなされます。あくまで客観的な事実を基に、業務への影響を伝える形で指導することが求められます。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市を拠点に、就業規則の整備や評価制度の構築、障害者雇用や同一労働同一賃金への対応などを通じて、労使がともに豊かになる職場づくりを力強くサポート。ネットニュース監修や講演実績も豊富でありながら、SNSでは「#ラーメン社労士」として情報発信を行い、親しみやすさも兼ね備えた専門家として信頼を得ている。