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長年の営業活動で培った顧客リスト、転職先に持ち出すのはアウト? 「俺様が汗水たらして築いた人脈だから」の言い分は法廷で通用するのか【弁護士が解説】

長澤 芳子 長澤 芳子

中堅商社で長年トップセールスとして君臨してきたAさんは、周囲も認めるエース営業マンでした。しかし、成果に見合う評価を得られていないという不満が、次第に彼の心の中で大きくなっていきます。その結果、更なるキャリアアップと高待遇を求め、長年のライバルであった競合他社への転職を決意しました。

そんなAさんは、長年の営業活動で築き上げた顧客リストを持っています。担当者の趣味や家族構成、過去の取引の詳細な履歴まで、Aさん自身の努力の結晶とも言える情報が詰まっています。彼は「この顧客リストは、俺が汗水たらして築いた財産そのものだ。新しい会社でもこの人脈を活かして、すぐにでもトップに立ってやる」と強く決意していました。

転職後にAさんは、持ち出した顧客リストを元に精力的な営業活動を開始します。前職の内部事情や取引価格を知り尽くしているAさんは、有利な条件を提示し次々と前に勤めていた会社から顧客を奪っていきます。

このように、自ら作成した顧客リストを使ってライバル会社で仕事をするのは、問題ないのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞きました。

民事や刑事の両方で責任が問われる場合も

ー顧客情報を無断で持ち出す行為は、法律に違反する可能性がありますか

Aさんの行為は、主に「不正競争防止法」に違反する可能性が極めて高いと考えられます。この法律は企業間の公正な競争を守るためのもので、企業の「営業秘密」を不正な手段で取得及び使用したり、第三者への開示したりする行為を禁じています。

ただし、顧客リストが「営業秘密」として認められるためには、「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の3つの要件を満たさなければなりません。

Aさんが持ち出した顧客リストは、連絡先だけでなく取引履歴や担当者の個人的な情報まで含まれているため、「営業秘密」に該当する可能性が高いでしょう。

ー「自分が開拓した顧客だから」という言い分は法的に通用しますか

その言い分は法的には通用しません。過去の裁判例でも、従業員が会社の業務として、会社の経費(給与や交際費など)を使って開拓した顧客の情報は、たとえ従業員個人の努力が大きく関わっていたとしても、その所有権は会社に帰属すると判断されています。

その情報が従業員自身の携帯電話や個人の記憶の中にあったとしても、業務上取得した情報である限り、それは会社の財産なのです。

ー元勤務先から、どのような民事上・刑事上の責任を追及される可能性がありますか

元勤務先から民事と刑事の両面で厳しい責任を追及される可能性があります。

民事では、元勤務先は、Aさんに対して「差止請求」や「損害賠償請求」を行うことができます。会社の信用が傷つけられた場合には、「信用回復措置請求」を求められる場合もあるでしょう。

また、不正競争防止法違反は刑事罰の対象にもなります。営業秘密を不正に取得・使用した場合、「10年以下の懲役もしくは2000万円以下の罰金、またはその両方」という非常に重い罰則が科される可能性もあります。

軽い気持ちで行った情報持ち出しが、多額の損害賠償だけでなく、刑事罰によって前科がつき、輝かしいはずだったキャリアを完全に失ってしまうリスクをはらんでいるのです。

◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。

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