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知名度ゼロから、今や「おいしいごはん」の代表格に 街の米屋が生き残るために……次々と繰り出した、型破りの一手とは?

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20年前までは街の米穀店だったのが、今や年商32億の企業へと成長した「八代目儀兵衛」。米は今やスーパーや、通販などで買うことが増え、米離れも懸念されるなか、どのように「お米」を主役とできたのか……。

今年9月には創業の地である京都市下京区に新社屋が完成した、橋本儀兵衛社長に、成功の秘訣や今後の展望について聞いた。

家業は傾きかけて…危機感を抱いた20代

1787年創業の米穀店の長男として生まれ、大手通販会社ニッセンに就職。米卸業を経て、1998年、26歳で家業に入った橋本儀兵衛さん。

その頃、米業界は、1995年に食糧管理法が廃止されたことで、流通が自由化。価格競争が激化し、消費者の購入先も米穀店からスーパーマーケットへと移り変わっていった。

「家業も傾きかけていましたし、米販売は、大手企業しか残っていけないのではと危機感いっぱいで、米屋が生き残る道を必死に模索していました」

かつて政府が米の流通を管理した時代は、銘柄米を安定して仕入れることができず、米屋が独自でブレンドを行って消費者に提供。しかし、食糧管理法が廃止されると、産地と銘柄の表示が義務化され、銘柄米ばかりがもてはやされるように。ブレンド米にマイナスなイメージを持つ人も多くなったそうだ。

しかし、あえて「ブランド米」ではなく、橋本さんが光を見いだしたのは、「ブレンド米」という道だった。

「母と姉と、バンザイ!と言いながら梱包を」

「お米は精米ひとつで味が変わるのに、銘柄ばかりに注目が集まる。そこで、これまで培った経験をもとに、お米を選び、精米、そしてブレンドする、スーパーマーケットにはできないブレンド米で勝負することにしました」

安売り競争に乗らず、米のプロフェッショナルとして、量ではなく、質の販売に注力。まず、ブレンド米をオリジナルブランドとして掲げ、米業界ではいち早くインターネットビジネスに参入した。

2006年には、株式会社「八代目儀兵衛」を設立。しかし、ECを始めたものの、初月の売り上げはわずか20万。

「その頃は、注文が入る度に、母と姉と一緒にバンザイ!って言いながら梱包してましたね」

そんな赤字が続くなかで橋本さんが始めたのが、米を高級感あるギフトとしての提案だった。洋食、チャーハン、おむすびやカレーなど、用途に応じたブレンド米を展開、12種類、2合ずつ色とりどりの風呂敷に包んで詰め合わせた「十二単『満開』」だ。

日本人には欠かせない「お米」。それを、シチュエーションに分けて使いわけるという独自のアイデア、美しいパッケージによって、単なる米ではなく、特別なギフトとなった。

その結果、初年度800万円だった売り上げは2年目には2400万円となり、創業から5年で売り上げは48倍に。その、売り上げアップに貢献したのが、2009年に八坂神社前にオープンした飲食店「京の米料亭 八代目儀兵衛」だ。

「銘柄米ではなく、ブレンド米だからこそ、実際に食べておいしさを知ってもらう場所が必要だと思いました。それにネット上で商売をしていても、メディアでは全然取り上げてもらえなくて。知名度を上げるためにも実店舗を作る必要性を感じました」

米屋が手がける土鍋で炊いた銀シャリごはんを主役にした店は話題になり、連日大行列の繁盛店に。2013年には東京に「銀座米料亭 八代目儀兵衛」も誕生した。

おいしいごはん=八代目儀兵衛が広まり…

ブレンド米のブランド化やECでのギフト米の提案、米料亭など、これまでの米業界にはない挑戦と成功は、有名企業も注目。米にまつわるオファーが次々くるようになり、現在も「日立グローバルライフソリューションズ」の電気炊飯器の開発支援や「セブン−イレブン」おにぎりの米の監修を行っている。

それに伴い、「八代目儀兵衛」の米が、ホテル、寿司店、有名レストラン、おにぎり店、ラーメン店など幅広くでも提供され、その数は全国で600軒超え。徐々に京都だけでなく全国にも、「八代目儀兵衛=おいしいごはん」と認識する人が増えていった。

それと同時に、2018年からアメリカやアジアに米の輸出も行っており、海外でもその認識が広まっていったのだ。

「今は特にタイで日本米の人気が高まっていて、八代目儀兵衛のお米がほしいと名指しされることもあります。うちのブレンド米の品質を海外の方が認めてくれているのはうれしいですね」

日本で食べている品質と同じクオリティーを担保するために、現地に社員が出向き、米の管理や研ぎ方、炊き方、さらには米を炊くための水の選び方までアドバイスすることも。

そして、新社屋の1階に、9月27日開店した「炊きたて土鍋ごはん OMOYA 八代目儀兵衛」も、海外での重要な一手に。祇園の米料亭よりもカジュアルに、ランチの御膳(1780円~)では、1人ひと釜、たっぷりと1合で白ごはんを提供。そのごはんを炊くのが、今回のために開発した業界初となる、20分で炊き上げる土鍋と炊飯方式だ。

「この炊飯システムは、『お客様を待たせない』『海外の方にも同じ味を』という想いから完成しました。本来であれば20分で炊き上げるのは大変難しい。しかし、米のプロとしての技術をシステムに組み込むことで、ボタン操作でも絶妙な火加減を実現し、短時間で炊きムラなく安定した最高のごはんに。職人が常駐しない海外の店舗でも、日本と同じように提供できると考えています」

ただ単に米を輸出するだけでなく、日本の米文化を伝えるためにグローバルに活躍する橋本さんだが、掲げるミッションは家業に入った27年前から変わらず、米文化を次世代に繋げることだ。

「お米だったら品質にこだわらなかったり、安ければいいと思う人がいたり、本当においしいごはんを食べている人が少ないと日々、感じます。今後、海外から安いお米が入ってきたら、日本のお米がすぐに駆逐され、お米の食文化は衰退してしまうでしょう。

我が社では、これまでも独自の食育プログラム『my Taste』に取り組んできましたが、『OMOYA』では、大人向けの食育も行っています。これからも、日本のお米の味をしっかりと理解してもらうための活動をしていきたいし、『本当においしいお米がどういうものか』を証明していきたい。

日本人がお米を文化として理解できれば、次の世代も米を食べ続ける時代が続くと信じています」

■京の米老舗「八代目儀兵衛」 https://hachidaime.com/

(まいどなニュース/Lmaga.jp特約・天野準子)

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