現役を終えた採卵用のニワトリは「廃鶏(はいけい)」と呼ばれ、多くが生後1年半ほどで処分されます。そんな“廃鶏”を引き取り、命をつなぐ様子を公開したYouTube動画が注目を集めています。
投稿したのは、雌鶏たちの日常を発信する「チキンズチャンネル」(@-ChickensChannel)を運営する藤田さん。動画では、山梨県の放牧養鶏場「百鶏園」で引き取った廃鶏に“万結(まゆ)”さんと名付け、愛情を込めて世話をする様子が紹介されています。
"廃鶏ゼロ"に取り組む
今回藤田さんが廃鶏を引き取りに訪れたのは、山梨県にある放牧養鶏場「百鶏園」です。日本では採卵鶏をワイヤー製の狭いケージに密集させて飼育する"バタリーケージ飼い"が主流で90パーセントを占めている中、「百鶏園」は数パーセントしかないという貴重な"放牧養鶏場"なのだといいます。
廃鶏はスープや加工食品には使われるものの需要が低く、「数十円など安価で取引されたりとゴミのように扱われるのが現状」と動画内で藤田さんは話します。しかし、採卵養鶏では廃鶏せずには事業が成り立たず、安価で卵を供給することができないのだそう。
しかし、「百鶏園」は廃鶏を出さない終生飼育にチャレンジしており、廃鶏のエサ代を寄付で集めたり、廃鶏の譲渡会を行って"廃鶏ゼロ"に取り組んでいます。
そして、百鶏園の代表・小沢さんがやっているこの取り組みに深く感銘を受け、「小沢さんのところの子を引き取ることに決めました」と藤田さんは話します。
こうして藤田さんが新しく迎えたのが、「万結(まゆ)」さんと名付けられた、あずさという種類の廃鶏だったのです。引き取る前からすでに決めていたという「万結」という名前の由来について、藤田さんは次のように話します。
「活動を通して、多くの廃鶏と飼い主を“結びたい”という思いから“万結”と名づけました。出身の養鶏場が“百鶏園”だったので、“百”より多い“万”にしたんです。また、子どものニワトリではないので“万結ちゃん”ではなく『万結さん』と呼ぶことにしました」
廃鶏を飼育するモデルになりたい
そもそもなぜ今回廃鶏を引き取ることになったのか、その経緯について藤田さんにお聞きしました。
「『チキンズチャンネル』はこれまでずっと3羽の雌鶏でやってきましたが、この夏に最愛のニワトリ・アローカナの雷(らい)が白血病で他界したことがきっかけです」
アローカナはずっと飼いたいと思っていた念願のニワトリだったため、その最愛の鶏との別れが辛かった藤田さんは「もうアローカナ以外の種類のニワトリを迎え入れよう」と思っていたそう。
そんな中、ちょうど8月に会社を退職したという藤田さん。9月からは“ニワトリ活動家”としてアニマルウェルフェア(動物福祉)や食育を伝える活動を始めようとしていたタイミングだったといいます。
「野良犬や野良猫を保護するように、処分される産業動物もペットとして飼う選択肢があっていい。僕自身が"廃鶏を飼うモデル"となり、その姿を発信することで、命を最後まで全うできるニワトリを増やしたいと思いました」
アニマルウェルフェア(動物福祉)と終生飼育
藤田さんがアニマルウェルフェアや終生飼育に関心を持ったきっかけは、万結さんを引き取った養鶏場「百鶏園」の取り組みを知ったことでした。それまでは「採卵鶏が1年半という短期間で処分されると知らなかった」と明かします。
しかし、アニマルウェルフェアが進むと卵や肉の価格が上がってしまい困るという人も。そのため、視聴者には知った上で「自身で判断してもらいたい」というスタンスでいるといいます。
動画には「廃鶏、私も迎えたいです」「素晴らしいです。感動しました」というコメントが寄せられており、「そういった人からもまた話題が広がっていって、廃鶏飼育をもっともっとメジャーにしたいです」と藤田さんは話します。
「とはいえ、チャンネルに思想的なものを取り入れるよりも、まずはニワトリの可愛さであったり魅力だったりを伝えるのが大切だと思っています。卵を生産する役目だけではなく、生き物として、ペットとしての魅力を知ってもらいたいです」
廃鶏を迎えるにあたって気を付けたこと
藤田さんは廃鶏である万結さんを迎えるにあたって、先住の2羽との関係に細心の注意を払いました。通常、新しい雌鶏やひよこを迎えるとニワトリ同士が仲良くなるまでものすごく時間がかかるそうです。
そのため第一にすでに藤田さんの元で飼っている2羽の雌鶏、波留ちゃん(はる・ブラマ種)と紗羅ちゃん(さら・アメリカンシルキー種)との相性を慎重に見極めたといいます。
「うちの2羽はものすごく気が弱いので、気の強い子を迎えるより、弱い子ならうまいこといくのではと考えました。養鶏場の中でも元気な子よりも弱い子をなんとかしたいという想いもあります」
そこで今回藤田さんが選んだ万結さんは、「あずさ」という百鶏園の主力品種であり、比較的人懐こいと言われているニワトリでした。
「万結さんはこれまで多くの群れの中で過ごしてきたこともあってか、新しい仲間たちにビビることもなくマイペースにすごしています」
しかし、先住の2羽たちがまだ慣れていないところがあり、藤田さんはストレスを減らしてあげる工夫をしています。例えば、普段は高さのあるキャットケージで飼育しているそうですが、エサや水を飲める場所を増やして別の場所でもお腹を満たせるようにしているといいます。
「慣れない中でずっと狭い空間にいるとストレスになるので、できるだけ散歩に連れて行っています。とにかく一緒にいると仲間意識ができて来るようです」
もっと多くの廃鶏を救いたい
廃鶏となり藤田さんに引き取られた万結さんですが、今でも毎日卵を産むのだそう。採卵鶏は経済性を優先させるために小さな体で大きな卵を産むように改良されており、とにかく餌をたくさん食べることに驚いたといいます。
採卵鶏は卵を作るためにものすごいエネルギーを必要としているといい、「これまで3羽で飼っていた時と比べると餌の減りがものすごく早いです」と藤田さんは他のニワトリと採卵鶏との違いを感じたそう。
「養鶏場では草や虫を食べることはありませんが、散歩に連れて行くと好きなだけ草や虫を食べています。その姿を見ると、本当に引き取って良かったと思います。もっと多くの鶏に、この本来の行動欲求を満たしてあげたいとも思いました」
最後に今後の目標をお聞きすると、「ニワトリの魅力や飼育方法などを紹介して、もっと多くの人にニワトリの魅力を伝えたい」と藤田さん。また、小学校などで講演を行いたいと展望を語ります。
「高学年にはアニマルウェルフェアの話を取り入れたニワトリふれあい教室、低学年や未就学児には触れ合ってニワトリを知ってもらう体験授業などを行いたいと思っています。全国の先生方、ぜひ外部授業として呼んでください!」