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ゲートボールはお年寄りの趣味?「その考え、遅れてます」 ピアスに茶髪の若手も絶賛活躍中

陰山 篤志 陰山 篤志

 おなじみの生涯スポーツ「ゲートボール」に若い世代の姿が目立ち始めている。「芝や土の上で行われる囲碁、将棋」と言われるほど、先を読む戦略性に引きつけられているようだ。グラウンドゴルフなどに押され、かつてに比べて減った会員の盛り返しに力を注ぐ京都府ゲートボール連合は、この流れをさらに強めようと知恵を絞る。

 茶色の髪が芝の緑に映え、耳にはピアスが光る。6月下旬に京都府京丹波町の府立丹波自然運動公園で開かれた第40回京都府ゲートボール選手権大会。長岡京市から出場したチーム「和(なごみ)」は、30代と40代が引っ張った。20年ほどのゲートボール歴を持つ嶋岡達也さん(39)はゲーム後、「作戦がばちっとうまくいったら気持ちいい」と汗をぬぐった。仕事後の週3回の練習を欠かさないという。柴建一さん(43)は「2年くらい前に誘われて始め、はまった」と笑顔を見せる。渡辺勇眞さん(32)は小学生のころから打ち込んでいるという。

 同連合の鈴木信久会長(90)は若い世代の活躍を喜びつつ、「ゲートボールを高齢者のものと思っているようでは、時代に遅れますよ。問題外です」と、ユーモアたっぷりに強調する。

 ゲートボールは1947年、北海道の鈴木栄治さんが子どもが楽しめるスポーツとして考案。5人でチームを組み、ゲート通過などによる得点を競う。打撃ごとに緻密な指示が飛び、巧みにボールを打って自チームを有利にしたり、相手の得点を阻んだりしていく。頭を使う戦略性が若い世代をとりこにする。同連合の橋本一男理事長(88)は「10手先を読む。奥が深く、難しい」と指摘する。

 身体的接触がないことなどから、ゲートボールは1980年代などに高齢者の間で隆盛を誇った。しかし、人気は諸刃(もろは)の剣となる。「高齢者の趣味」というイメージが付いて、一部から敬遠されたのだ。個人競技の気楽さでグラウンドゴルフに流れる人もいた。同連合の場合、25年ほど前に少なくとも1万人以上いた会員は、近年は約800人という。

 同連合は、次代を担う若手の取り込みに躍起だ。プレーヤーが目標に据えて出場を目指す同選手権大会は従来、主に平日に開催していたが、今年は日曜に実施。現役世代が参加しやすいよう、今後も週末に開くつもりだ。

 ミスをリーダーが時に厳しく注意してしまうなど、ゲートボールはぎすぎすしているという一部にあるイメージも、競技離れの一因とされるため、近年、リーダー研修を徹底。鈴木会長は「一生懸命やった上での失敗。言葉遣いを大切にしようと伝えている」といい、前向きでソフトな声かけの大切さを説いている。取り組みは実を結びつつあり、今年の同選手権大会は真剣でありながらも和やかに進んだ。自チームだけでなく、相手チームの好プレーに拍手を送る姿も見られた。全国制覇の経験があり、京都を代表するプレーヤー林恒生さん(75)は「よう当てた」と相手に賛辞を惜しまなかった。

 鈴木会長は、京都市の小学校でゲートボールの手ほどきをするなど、裾野が広がるような種まきも続ける。全国的にはゲートボール部がある高校が少なくないのを踏まえ、高校にも普及させ、「いつか京都で高校生の大会をできたら」と話す。

 京都市の人口の1割を占める大学生も取り込みたい考え。部を作ってもらえるよう、各大学に働きかけたいという。

 学生が魅力にはまる可能性は十分ある。立命館大スポーツ健康科学部の永浜明子教授(インクルーシブスポーツ)は、びわこ・くさつキャンパス(滋賀県草津市)で同県ゲートボール連盟の協力を得ながら授業を展開。学生からのリクエストでコマ数を増やすほど人気という。永浜教授は「学生からは、戦術が高度で面白いというだけでなく、地域コミュニティーとつながる大切さを感じたという感想が寄せられる。『地域のチームを教えてほしい』との声もある。学生が年齢を重ねた時に、授業を思い出し、やってみようという人が出てくるのではないか」と期待する。

 ゲートボールの効能について、永浜教授は「頭を使い、認知機能の維持につながる」とする。「80代と10~20代が対等に楽しめるなど、世代間交流がはかれるインクルーシブ(包み込む)な面もある。高校の体育の授業にも広がっていくといい」と願う。

 寿命が延びて人生100年時代と言われる反面、老境の長い孤独が社会問題となる今、多くの仲間と喜びを分かち合うチームプレーの妙味にも光が当たる。鈴木会長は「孤立が取りざたされる今の時代にこそ、見つめ直してほしいスポーツだ」と訴え、「まずは会員を千人台に戻す」と意気込む。

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