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「この世界の片隅に」の作者 漫画家こうの史代さんが“京都・福知山”に住み続ける理由 「ここには原風景がある」

京都新聞社 京都新聞社

 「この世界の片隅に」などで知られる漫画家こうの史代さん(56)が今年、デビュー30周年を迎えた。現在暮らす京都府福知山市を「誰もが『ここは自分のまち』と思える日本の原風景がある」とほれこむ。4月、同市が舞台の長編「空色心経」を刊行し、地域と関わりながら創作するプロジェクトを始めた。府北部の片隅で、暮らしと画業の融合が進む。

 「漫画家って、なるよりも続ける方が難しいってよく言われるんですが、私は逆でなるのが難しくて…。意外となってからは描きたいものは時間がかかっても描いてこられたんです」

 こうのさんは1995年のデビューからの歩みを振り返る。2004年に原爆をテーマにした「夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国」で文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞。戦争で傷つきながらも生き抜く市井の人々を繊細に描いた「この世界の片隅に」はアニメ映画化され、大ヒットした。

 夫の実家がある福知山市に移住したのは2016年。義父の看病で訪れたまちに心をつかまれたという。山があり、田んぼがあり、民家がまばらにある-。「知識で得たような神々しい風景ではなく、小さい時に見たような普遍的な日本の原風景が広がっていた」

 12年ぶりの長編「空色心経」には「この地での暮らしを描けば、もっと多くの人が共感してもらえるのでないか」との強い思いが込められた。お気に入りの散歩道から選んだという、由良川沿いの戦国武将明智光秀ゆかりの「明智藪(やぶ)」と河川敷、鉄橋や福知山城の遠望が描かれている。

 「ふつうの人の、ふつうの物語が描きたかった」とこうのさん。現代の日本で喪失感を抱いて暮らす女性が般若心経と出会い、自らの心と向き合っていく。時空を超えた古代インドで「般若」の意味を求める観自在菩薩(ぼさつ)の物語と交錯していく。1枚の原稿の中で、女性と菩薩それぞれの世界を黒と青の2色で描き分ける新たな表現にも挑戦した。

 まちへの愛着は増している。市の依頼で21年、光秀にちなんだイラスト「麒麟(きりん)のいる街」を描き下ろした。今年4月、「まちなかお絵かきプロジェクト」を立ち上げた。第1弾として地元の映画館を盛り上げるため、架空の映画の懸垂幕を描いた。6月には福知山城の天守閣や福知山シネマでライブペインティングを予定する。

 福知山の風景を盛り込んだ新作の構想も練っているといい、「福知山で自分がワクワクするものを見つけ、その感動を伝えていきたい」とほほ笑む。

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