幅0・1ミリの線で空想の生き物を緻密に描き出す―。動物と自然の風物、機械を融合させたペン画を手がける中塚翔一朗さん(23)=岡山県津山市=が一枚の作品に描き込む線の多さは圧巻だ。自閉症があり、幼い頃から集団での生活に苦しんだが「描いた絵だけは褒められ、何度も救われた。絵こそが全て」と言い切る。繊細な作風が評判を呼び、じわりと人気が広がっている。
岡山市内の家具店で開かれている個展会場。まず目に飛び込むのがヘラクレスオオカブトと海をかけ合わせた作品だ。勇ましい姿の細部をよく見ると、微小なサンゴや海藻、魚でびっしりと埋め尽くされている。ほかに、数え切れない装甲板やパイプをまとったメカニックなトリケラトプス、サメと海賊船とハワイアンカフェが合体した作品などユニークな24点が並ぶ。
中塚さんのファンで個展初日の7日に訪れた女性(66)=同市南区=は自宅に作品を飾っているといい「とにかく線が細かく、ずっと見ても飽きないのが魅力です」と話した。
中塚さんは9歳の時、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された。人前で話すことや文字を読むこと、運動も苦手で集団生活が苦しいと感じていた。ただ、絵では小学生の時から数々のコンクールで入賞した。「絵が心の支え。今でもそう。人生に絵がなかったら本当に困っていたと思う」とからりと笑う。
高梁城南高を卒業後、京都市産業技術研究所で手描き友禅を学んだ。ペン画にのめり込むきっかけは2年ほど前。落書きのつもりで描いた作品をSNSに投稿したところ、約4千件の「いいね」が付いた。「得意な作風に気付き、自信が一気に高まった」。2023年11月に津山に帰り、画家として食べていくことを目標に、日々ペンを走らせている。
創作に生かすため、池田動物園(岡山市)をはじめ岡山県内外の動物園や水族館にたびたび足を運び、生き物を観察する。「筋肉や骨格の動きを学ぶことでリアルなポーズを追求できる」。創作に没頭すると、飲まず食わずで9時間が過ぎることもしばしばだという。
緻密な絵が評判になり、出展依頼が少しずつ増えてきた。9月末からは県北を舞台に初開催される「森の芸術祭 晴れの国・岡山」の関連イベントで自作を披露する。
中塚さんは「海を美しいと思うのも自分、機械のように時に壊れることがあるのも自分。絵は、いろんな自己を投影していて『自閉症も大切な自分の一部』と肯定してくれる存在でもある」と話す。
個展は23日まで
個展「翔一朗ペン画展」は23日まで、岡山市南区大福の家具店「さしこう岡山大福店」で開催中。午前10時~午後6時。18日休み。問い合わせは同店(086―250―9311)。