新入社員のAさんは、心躍らせながら入社の日を迎えました。完全テレワークという魅力的な条件に惹かれ、大手IT企業に就職を決めたのです。彼の頭の中には、日本全国を旅しながら仕事をするという夢が広がっていました。
入社前から綿密な計画を立て、全国各地のホテルやゲストハウスに宿泊できるサブスクリプションサービスを契約します。パソコンと携帯WiFiさえあれば、どこでも仕事ができる環境を整えたのです。
しかし入社して半年後、衝撃的なニュースが飛び込んできました。会社がテレワークの廃止を決定したのです。社内のコミュニケーション強化と顧客対応の円滑化が理由だと説明されました。
せっかく立てたテレワーク計画が水の泡となり、Aさんは驚きを隠せません。彼は人事部に相談しましたが、会社の決定は覆らないと告げられました。
サブスクリプションサービスを利用した計画は見直しを迫られ、購入したノートPCやWiFi機器の使用頻度も大幅に下がりそうです。何よりも住む場所を探さなければなりません。
会社の方針変更は理解できるものの、入社前の説明と現実のギャップに戸惑いを隠せないAさん。「このまま会社に残るべきか?それとも、テレワークができる他の会社を探すべきか?」と自分に問い続けるも、すぐには結論がでません。
従業員は会社の変更に従わないといけないのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞いてみました。
ーテレワークの廃止など労働条件の変更には従わないといけないのでしょうか
雇用契約書や就業規則にどのように書かれているかがポイントです。一般的に就業規則では、どこでもテレワークしていいというわけではなく、「自宅または会社の指定する場所」と規定されている場合が多いです。
テレワークをする社員の範囲や業務内容、テレワークの期間、テレワークの終了等、ひとことに「テレワーク」と言っても規程が細かいのが通常です。完全テレワークと謳われていたとしても、就業規則に転勤や出向について書いてあれば正当な理由がない限り従わないといけません。
もし企業が雇用契約書や就業規則でテレワーク限定の雇用であるとなっていれば、従業員の同意なくテレワークを廃止できません。労働契約に違反していると判断されるでしょう。
一方で「企業側の判断で許可を取り消せる」と規定に書かれていれば、従業員は従わざるをえません。Aさんの場合がどちらのケースにあたるのか、確認が必要です。
ー就業規則が変更されれば従わないといけませんか
企業が就業規則を変更するには、労働契約法第10条にて、その変更が合理的でなければならないとされています。テレワークの廃止が合理的だと認められない限り、就業規則の変更は認められません。
また入社後の労働条件変更はトラブルにつながりかねないです。面接などで言われていたことと入社後の話に齟齬が無いか雇用契約書を確認することをおすすめします。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。