赤血球に含まれる「ピルビン酸キナーゼ」が不足することで赤血球が破壊され、貧血や食欲低下などの症状が見られる「ピルビン酸キナーゼ欠損症」は遺伝性の病気。アビシニアンやソマリといった猫種に見られやすい病気だと言われているが、他の猫種やミックスでも発症することがある。
Stさん(@I_was_Ken)は愛猫つくねちゃんがこの病気になり、確定診断の難しさを痛感した。
2回もお迎えキャンセルを経験した「つくね」ちゃん
つくねちゃんは、2011年に迎え入れた子。動物病院で里親募集の張り紙を見たことがきっかけだった。
つくねちゃんは過去に2回もトライアルがキャンセルとなっていたそう。対面時には保護主さんから「連れてくる前、ミートソースの中に突っ込んでいったんです」と言われ、じゃじゃ馬なのかと心配に。だが、一緒に暮らしてみるとキャンセルされた理由が分からないほど、穏やかな子だった。
「避妊手術後には、黄疸が出て検査入院。お見舞いに行ったら鼻に管を通されながら私を見つめてくれて…。泣いてしまいました」
見た目も性格も全部、愛おしい。そう、愛を注ぎながら飼い主さんは思い出を築いていった。
穏やかな日々が一変したのは、2024年5月。スマホのアラーム音が鳴った時、つくねちゃんが突然、痙攣した。かかりつけ医では次に痙攣が起きた場合、日時や状況を覚えておくように、と言われた。
再び痙攣が起きたのは、5カ月後の10月。同じ状況だったため、アラーム音に驚き、痙攣しているのではないかと思った。運悪く、かかりつけ医は休診日。別の動物病院の医師は、飼い主さんと同じ見解で「音に驚いて痙攣している可能性がある」と告げた。
「また痙攣が起きたら投薬治療を検討しよう、と。ひとまず、アラーム音を小さくし、この病院で治療を行うことにしました」
原因が分からない「痙攣」と「貧血」
それから、しばらく経ったある日。30cmほどの高さがある場所で眠っていたつくねちゃんは寝返りを打った際に落下。痙攣も見られた。
その状況を見た飼い主さんはアラーム音ではなく、驚くことと痙攣に関連があるのではないかと思い、かかりつけ医に相談。念のため、血液検査を行うことになった。
すると、血液中の赤血球の割合を示す「ヘマトクリット値(HCT)」が低く、貧血であることが判明。カリウムの値も低かったためサプリを与え、数日に一度、血液検査を受けることになった。
「カリウムのサプリをご飯に混ぜて与えると、食欲が増したように感じました。でも、HCTは下がっていきました」
片道1時間半かかる県外の病院に検査入院
医師は原因を絞り込むため、骨髄検査を勧めた。骨髄検査は入院し、全身麻酔下で行う。つくねちゃんが高齢であることから飼い主さんは悩んだが、受けさせようと決心。片道1時間半かけて、対応可能な岡山県の病院を受診した。
入院前にはまず、大きな病院で血液検査。成熟赤血球になる前の「網状赤血球」の値が高かった検査結果を見て医師は「血液を作っている最中だから、HCTも上がってくるかもしれない」と告げた。
「ただ、貧血の原因を調べるため、外注の血液検査を受けることになりました」
2日後、飼い主さんはつくねちゃんを連れて、岡山へ。その日の血液検査ではHCTも網状赤血球の値も下がっていたことから、入院して骨髄検査を行うことになった。
また、外注検査により、貧血の原因は失血であることが判明。骨髄検査の前に内視鏡検査を行い、腫瘍などを探すことになった。
翌日、飼い主さんはつくねちゃんを迎えに、再び岡山へ。検査の結果、腫瘍はなく、白血病でもなかった。
検査時の輸血の効果もあったのか、HCTは21%まで回復。医師からは「鉄欠乏性貧血」と告げられ、ステロイドと鉄剤を服用しながら経過観察をすることになった。
だが、5日後、再び岡山の病院で血液検査をすると、HCTが13%まで下がっていた。
遺伝子検査で分かった「ピルビン酸キナーゼ欠損症」の疑い
失血している箇所が分からないため、ステロイドを減らして様子見をすることになったが、状況は好転しない。3日後、かかりつけ医で血液検査を受けると、HCTはより下がっていた。だが、原因が分からないため、できるのは輸血のみ。
「ドナーとなる猫ちゃんの数に限りがあることや輸血をしてもすぐにHCTが下がる可能性が高いことから、2回しかできないと事前に言われていました。それでも、少しでも長くいたくて輸血を決意したんです」
ところが、2日後に血液検査をすると、HCTは少し回復。ひとまず、輸血はせず、様子見することになる。
そして、この日、飼い主さんは医師から「ピルビン酸キナーゼ欠損症」という病気があることを聞く。「4歳前後で亡くなることが多い病気だけど、可能性はある」と、外注の遺伝子検査を勧められた。
「検査は、親猫の猫種を知っていることが重要でした。つくねの場合は、片親がノルウェージャンフォレストキャットであることしか分からなかったのですが、それでも検査してみようと思いました」
すると、分かる猫種が片親だけであったから、断定はできないものの、ピルビン酸キナーゼ欠損症の可能性が高いという検査結果が出た。
慢性的な貧血である可能性が高い子。そう分かったことで、できる治療は増えた。医師からは脾臓を摘出する治療法もあると言われたが、通院先で行うことは難しく、全身麻酔への不安もあったため、ステロイド剤を週2回、1錠ずつ服用することに。現在は、穏やかな日常を取り戻している。
年明けには再び痙攣を起こしたが、血液検査の結果は良好。一時期、10.3%まで下がっていたHCTは17%まで上がり、カリウムも正常値になった。
「とにかくご飯を食べてもらい、血を作ってもらっています。あと、腎臓が悪くなった影響で多飲多尿になってきたので腎臓ケア用フードをあげ、カリウムのサプリをご飯に混ぜています」
「ピルビン酸キナーゼ欠損症」という病名がより広まるように…
「私の場合は痙攣を見たことが病気に気づくきっかけになった。何かあった時は、早期受診してほしい」
そう話す飼い主さんは今回の経験でペット医療費の高さを痛感し、病名が広く知られることを願っている。
「もちろん、動物との暮らしでお金がかかることは理解しています。ただ、金銭的負担が少ない遺伝子検査を先に行うことを選択肢のひとつとして提案していただけたらありがたかったです」
ピルビン酸キナーゼ欠損症は高齢になるまで生きている可能性が低いため、医師としても“考えられる病名”として頭に浮かびにくいケースがあるかもしれない。だが、もし、先に遺伝子検査を提案してもらえていたら高齢猫に全身麻酔をさせずに済み、総額30万円弱かかった医療費を別のケアに使うことができたかもしれないと飼い主さんは思うのだ。
飼い主や愛猫にかかる負担が少しでも減るよう、似た状況の時には「ピルビン酸キナーゼ欠損症」を視野に入れ、獣医師に相談してほしい。そう願う飼い主さんの経験は、世の猫飼いにとって大切な学びとなる。