普段通りの日常生活を送っていただけなのに、見知らぬ他人から刃物で刺されて深い傷を負ったり、命まで奪われたりする事件が相次いでいる。もし事件現場に居合わせたとき、被害者の命を救うために何かできることはあるのだろうか。もちろん自分の身に危険が及ばないことが前提だ。
本人の強い希望で氏名を公表できないが、救命救急センター長を務める医師に話を聞いた。
刺さったままの刃物は抜かないほうがいい
12月14日夜、福岡県北九州市にあるファストフード店で、注文のためレジ待ちの最後尾に並んでいた中学生の男女(いずれも15歳)に、後から入店してきた男が無言で近づき、女子生徒の腹部と男子生徒の腰付近をナイフのようなもので刺して逃走。女子生徒は死亡し、男子生徒も重傷を負った。容疑者は男子生徒への殺人未遂容疑で、19日に逮捕されている。
また18日の白昼には、神戸市中央区の市営地下鉄三宮駅の改札口付近で、高齢女性が女に刃物で刺される事件が発生。女は殺人未遂の疑いで現行犯逮捕された。
報道によると、いずれの事件も被害者と加害者とは面識がなく、接点もないという。
事件現場に居合わせてしまう恐れは、誰にでもある。犯人がまだ現場にいる場合は、危険を避けるために一刻も早くその場から離れることが大事。犯人が逃走して現場に危険がないと思われる場合、被害者にしてあげられることはないだろうか。
「まずは119番通報です」
誰かが通報しているだろう。誰もがそう考えて通報が遅れることもある。「自分が通報する」、あるいは自分は応急処置をするつもりなら、通りすがりの人をつかまえて「119に通報してください」と頼んでもいい。
被害者の体に刃物が刺さったままだったら、抜かないほうが出血量を少しでも抑えることができるという話を耳にすることがある。これは本当のことだろうか。
「救急救命士や救急隊員へは、そのように教育しています」
その場では抜かずに、凶器がグラグラ動かないよう両側にタオルを俵状にして、テープで固定してから医療機関へ運ぶよう教育しているという。
刃物が刺さったまま血管に蓋をするような状態であれば、出血量が少しでも抑えられるからだ。ただし、刃物の固定は救急隊が行う処置なので、「とにかく一刻も早く、119番通報をしてください」とのこと。
傷口を圧迫して止血を
「失血死に至る場合は、傷口から噴水のように出血している場合があると思うんですが、出血点そのものをピンポイントでギュッと圧迫止血することが理想です」
とはいえ、大量に出血して倒れている生身の人間に対して、そこまでできるのかという問題はある。だが、やるのであれば、自分の拳(こぶし)をコンビニのレジ袋やビニール袋、あるいはハンカチ、タオルなどでくるんで、出血している部位へ垂直に押し当て、血液が血管の外へ漏れ出ないようにすることが理想だという。
「とにかく、出血量を減らすの一言に尽きます」
日常の中に突然現れる無差別な暴力。応急処置の知識を身につけておくと、慌てず冷静に行動でき、誰かの命を救えるかもしれない。災害時だけでなく、このような突発的な事態にも備えることの大切さを改めて感じた。