ラーメンをこよなく愛するAさんは、念願の大人気店にやってきました。提供されるラーメンの数にも限りがあり、いつも早い時間から行列ができています。Aさんは友人とこのラーメン店を堪能しようと約束していたのですが、待ち合わせの時間になってもなかなか友人が現れません。友人の到着を待っている間に行列がだんだん長くなっていきます。
20人ほどが並びだしたころ、Aさんは友人の到着を待ってられないと考え、先に行列に並びます。しばらくして友人が到着したころには、Aさんの後ろにも多くの人が並んでいました。友人はAさんの姿を見つけて駆け寄り、そのまま一緒に並び始めます。
するとAさんの後ろに並んでいた人から「割り込みですよ」と注意を受けました。友人の分も一緒に並んでいたのですが、これって並び直さないと何か罪になるのでしょうか?まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
ー行列の割り込みを咎める法律はあるのでしょうか
強いて言えば軽犯罪法第1条13号がそれにあたるかと思います。この法律では「公共の場所で、多数の人に対して乱暴な言動で迷惑をかけたり、威勢を示して公共の乗り物、演劇などの催し、割り当て物資の配給の列に割り込んだり、その列を乱すこと」を禁じています。
ただ法律にも書いてあるとおり、対象となるのは公共の乗り物、演劇などの催し、物資の配給の列です。ラーメン店の行列にこの法律は適用されません。
ーでは割り込みが罪になることはないのですか
もし割り込みによって後ろに並んでいた人がラーメンを食べられなかった場合、精神的苦痛を受けたとして民事として損害賠償を求めることはできるかもしれません。しかし実際に裁判で訴えるとなるとその費用のほうが上回るでしょうから、実際に訴える人はいないでしょう。
ただ割り込みをきっかけに喧嘩に発展した場合は、話が変わってきます。この場合は暴行罪や傷害罪に問われることになるでしょう。
また大半の人がスマホを持っている今の時代、店の前で喧嘩ともなれば、誰かが動画を撮影してSNSに投稿するかもしれません。そうなると個人が特定され、見知らぬ人からの誹謗中傷を受ける場合もあります。迷惑行為を受けたとして、店側から訴えられる可能性もあります。
また店側から割り込みをする嫌な客と覚えられ、次回以降は入店禁止になってしまうこともあるかもしれません。飲食店の行列への割り込みを禁ずる明確な法律はないですが、一度の割り込みをきっかけに、より大きなトラブルが起きることも考えられるため、Aさんは並び直した方がいいでしょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。