緊張が高まる台湾情勢 大規模軍事演習は『反発』ではない 中国が待つ“機会”と隠された狙い…125機の戦闘機が示す現実

治安 太郎 治安 太郎

頼清徳氏の総統就任から5カ月が過ぎるが、中台関係は蔡英文前政権の時以上に緊張が深まっている。人民解放軍で台湾を管轄する東部戦区は10月14日、台湾本土を包囲するような形で大規模な軍事演習を実施した。今回の軍事演習には陸海空、ロケットのそれぞれの軍が参加し、海上封鎖や軍事施設への攻撃などを想定した訓練が実施され、中国海軍の空母も台湾本島の東部沖での演習に参加した。また、今回の軍事演習には中国海警局も参加し、4つの編隊が台湾を取り囲むように海上パトロールを行い、戦闘機やドローン、ヘリコプターなど125機、中国軍や海警局の艦船34隻が参加し、1日の規模としてはこれまでで最大規模となった。

中国が今回最大規模の軍事演習を行なった背景には、頼総統の双十節での演説がある。頼総統は10月10日、台湾の建国記念日と位置付けられる双十節の式典で、「中国は台湾を代表するような権利はなく、国家主権を堅持し、併合や侵犯を許さない」、「中華民国と中華人民共和国は隷属しない」などと発言し、中国側に強い反発を招いた。また、その直前に行われたイベントでも、「中華人民共和国は10月1日で75歳の誕生日を迎えたばかりだが、台湾はその数日後に113歳の誕生日を迎える」などと発言した。

同じようなことは5月にもあった。頼総統は5月の就任演説の際、「中華人民共和国と中華民国は互いに隷属しない」と10月の演説と同じような主張を展開したが、人民解放軍はその直後から2日間にわたって台湾本土を取り囲みような海上軍事演習を行った。こういった海上封鎖を想定しているような軍事演習2022年8月に当時のペロシ米下院議長が台湾を訪問した際にも行われましたが、その時は中国大陸側から弾道ミサイルが発射され、その一部は日本の排他的経済水域にも落下した。

頼総統の就任からまだ5カ月であり、残り3年半あまりの任期中に対中発言でトーンを落とす可能性も十分にあるが、これまでのところ蔡英文氏よりもっと踏み込んだ発言をしているように感じられ、中国は頼総統の発言1つ1つを注視し、それによって対抗措置の規模を選定しているように考えられる。

ここで重要なのが、中国は台湾側の発言や行動に対して反発、抵抗しているのではなく、そういった機会を待っている、探っているという認識だ。これまでの中国側の行動を見ていると、台湾の発言や行動に対して突発的に反応しているというより、対抗措置が極めて整備、統率されたものであり、事前に入念に計画されていた可能性が非常に高い。台湾を実効支配し、その後台湾を軍事的最前線として基地化し、その後西太平洋への影響力を拡大するというのは中国が描く海洋軍事戦略であり、その一環で台湾側への対抗措置は十分に検討されていよう。

そして、中国は台湾を包囲するような海上軍事演習を繰り返しているが、”演習を行なって→はい、終わり”という認識は中国側にはない。中国軍には台湾を包囲する軍事演習を積み重ねることで、海上封鎖などをすぐに実戦に移し替えることができるようにする狙いがある。中国は今後も頼総統の発言や行動を機会を捉え、実戦を意識した軍事演習を積み重ね、台湾を不利な状況に追いやっていくだろう。

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