体の片側に赤い発疹が出て、ピリピリとした痛みで夜も眠れないほどになることもある帯状疱疹。しかも治療が遅れると、神経痛として痛みが残り生活に支障が出たり、合併症で目や耳に後遺症が残ったりする可能性もあります。そんな帯状疱疹は、80歳までに約3人に1人が発症するとされていて他人事ではありません。ですが、予防するワクチンについてよく知らないという人が多いのではないでしょうか。
「帯状疱疹ワクチン『シングリックス』は、50歳以上の成人において極めて高い有効性を示しています。50〜69歳の成人では97%の効果があり、その効果は少なくとも9年間持続します。さらに注目すべきは、認知症のリスクも(インフルエンザワクチンと比較して)23%低下する可能性があることです。加えて、帯状疱疹後神経痛の予防効果は89%以上と高い効果を示しています。」
帯状疱疹にかからないように予防接種(シングリックス)を打った方がいいとXに投稿したのは、総合内科専門医および感染症専門医として勤務する「DR.L@感染症専門医」(@infection_dr_L)さんです。
リプ欄には、質問も含めてさまざまなコメントが寄せられました(質問と回答は、記事の最後にまとめました)。
「シングリックスは補助がないと高いけど、本当に打った方が良い。親が帯状疱疹にかかって、相当辛そうでした。副反応でかなりだるくなりますが、それでも打った方が良いです。」
「まだ50には届かないけど、帯状疱疹になった私はこれお勧めしたい。痛い、痛痒い、ピリピリする。治るまで結構かかる。」
「最近父が帯状疱疹になって苦しんでる(後遺症も結構しんどい)を見て、周囲の同年代が次々と受けに行ったよ。マジで該当者には勧める。こっちもやすかないが、なって後絶対後悔するから」
「帯状疱疹、自分が一番ストレスな時を見計らって起こるからほんとできるうちにやっといた方がいいです。(ストレスがあったときに)パンツのゴムが合わなくて痒い思ってたら急に痛くなり帯状疱疹と。体は正直」
ポストしたDR.Lさんに、お話を聞きました。
──帯状疱疹ワクチンを受ける方はまだまだ少ないと実感されて、今回のポストを?
臨床現場では帯状疱疹の患者さんが多く、この疾患がワクチンで予防可能であることをもっと広く認識していただく必要があると強く感じています。帯状疱疹は単なる皮膚の病気ではなく、患者さんのQOL(生活の質)に大きな影響を与える可能性がある深刻な疾患です。
──ワクチン接種をせずに帯状疱疹になられた方は、やはり受けておけば良かったとおっしゃる方が多いのですか?
帯状疱疹やその後の帯状疱疹後神経痛に苦しむ患者さんを多く診ていますが、その苦痛は想像以上に大きいものです。『ワクチンを受けておけばよかった』という声を実際によく耳にします。また、帯状疱疹罹患後も再発予防のためにワクチン接種を勧めることが重要だと考えています。
──すでに帯状疱疹にかかっていても、また再発することがあるのですね。そして誰でもかかる可能性があると。
CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の推奨では、帯状疱疹の罹患歴や現在の健康状態にかかわらず、50歳以上の全ての成人にワクチン接種を推奨しています。この点がもっと広く認知されるべきだと考えています。
──ワクチンの有用性がわかったあと、そのワクチンが2種類あるというのも、みなさん迷われるところだと思います。生ワクチン「ビケン」と、不活化ワクチン「シングリックス」があり、先生は「シングリックス」をすすめられているのですね。
予防効果を比較すると、ビケンの50%に対してシングリックスは90%以上と明らかに高く、シングリックスを強く推奨します。50歳未満の方で免疫機能に問題がない場合、帯状疱疹のリスクはそれほど高くないため、50歳までシングリックス接種を待つことも一つの選択肢です。
※予防効果の%は、New England Journal of Medicineに掲載された研究(doi: 10.1056/NEJMoa051016)に基づいています。
──ただ、「ビケン」は1回接種で約8000円に対して、「シングリックス」は2回接種で合計約33000〜44000円と、価格差が大きいです。
地域によっては助成金制度もあるので、そういった情報も活用することをお勧めします。もちろん、経済的な理由や接種回数を抑えたい場合は、ビケンも選択肢の一つとなります。
──シングリックスは認知症のリスクも、インフルエンザワクチンと比較して23%低下する可能性があるのですね、知らなかったのでびっくりしました。(※シングリックス単独の効果は17%)
帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低下の関連を示した研究(DOI: 10.1038/s41591-024-03201-5)がありますが、ただし、これはあくまで観察研究の結果であり、因果関係を断定するものではありません。現時点では、認知症予防をシングリックス選択の主な理由にすることは適切ではありませんが、帯状疱疹予防という主目的に加えて、潜在的な付加的利点として考慮に入れることは可能かもしれません。
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【DR.Lさんによる帯状疱疹Q&A】
Q1: 帯状疱疹に罹患したことがあるが、ワクチンを接種した方がいいのか?
A1: はい、帯状疱疹の罹患歴にかかわらず、シングリックスの接種が推奨されています。その理由は主に以下の2点です:
1. 再発リスクの低減: 帯状疱疹は再発する可能性があり、初回発症後、約4%の方が再発を経験するというデータがあります。特に、年齢を重ねるにつれて、あるいは免疫力が低下している場合にリスクが高まります。
2. 合併症の予防: シングリックスは、帯状疱疹後神経痛(PHN)などの合併症を90%以上の確率で予防する効果があります。PHNは帯状疱疹の痛みが長期化する症状で、生活の質に大きな影響を与える可能性があります。
ワクチン接種のタイミングについては、帯状疱疹の急性期が終わり、完全に回復した後が適切です。通常は発症から1年程度経過してからの接種が推奨されますが、免疫力が低下している場合は3ヶ月後から接種可能です。
Q2: 水痘になったことが ある or ない が、ワクチンを接種した方がいいのか?
A2: はい、水痘の罹患歴にかかわらず、シングリックスの接種が推奨されています。また、水痘の抗体価の確認も不要です。
シングリックスは水痘ウイルスの特定の成分(糖タンパク質E)に対する免疫を強化するため、過去に水痘に罹患したことがなくても効果があります。また、水痘に罹患したことがない成人は、将来水痘に感染した場合に重症化するリスクが高いため、ワクチン接種によって帯状疱疹と水痘の両方に対する防御を得ることができます。
Q3: ワクチンの副反応はどの程度か?
A3: シングリックスの一般的な副反応とその発生率は以下の通りです:
- 接種部位の疼痛(78%)
- 倦怠感(45%)
- 筋肉痛 (45%)
- 頭痛(38%)
これらの副反応は通常、数日で改善します。重篤な副反応としては、アナフィラキシー(100万回の接種あたり1〜2件)やギラン・バレー症候群(GBS)(100万回の接種あたり1〜3件)が報告されていますが、極めて稀です。
▽ワクチンの違い
シングリックス(不活化ワクチン):
・効果が高く、帯状疱疹の予防に90%以上の効果があります。
・免疫力が低下している方にも使用可能です。
・副反応として注射部位の痛みや全身症状(筋肉痛、疲労感など)が見られることがありますが、通常数日で改善します。
・2回接種が必要です。
・長期的な効果が期待できる(約9年間)
・高価(約3〜4万円)
ビケン(生ワクチン):
・帯状疱疹の発症リスクを約50%減少させます。
・免疫力が低下している方には使用できません。
・副反応は比較的軽度で、主に注射部位の局所反応です。
・1回の接種で済みます。
・効果の持続期間は約5年間と、シングリックスより短いです。
・安価(約8000円)
価格面では確かにシングリックスの方が高額ですが、効果や適応範囲を考慮すると、多くの方にとってはシングリックスがより適している可能性があります。
■DR.Lさんのプロフィール
総合内科専門医および感染症専門医として勤務。HIV感染症を専門とし、この分野の研究に携わる一方で、新型コロナウイルス、エムポックス、HPVなど幅広い感染症全般について情報提供を行っています。#UequalsU運動を支持し、LGBTQコミュニティのStraight Allyとして医療における平等と尊厳の擁護に尽力。最新の医学研究と臨床経験に基づいた信頼性の高い医療情報を提供することを心がけており、SNSでの啓発活動やnoteでも関連記事を執筆。日々の臨床経験と最新の研究結果に基づいて、感染症の予防と治療に関する情報提供に努めている。
・X https://x.com/infection_dr_L
・note https://note.com/infection_dr_l/
■帯状疱疹予防.jp https://taijouhoushin-yobou.jp