テレビや新聞で「大手企業が大幅なベースアップを実施」というニュースを目にする機会が増えました。ベースアップというのは、年齢・勤続年数・学歴・職務・職能などによって賃金を決定する賃金表を改訂し、賃金の水準を引き上げることを意味します。賃金水準が上昇すると聞いて、景気が上向いてきたのかと感じる人もいるかもしれません。
しかし実際には、その恩恵を実感している人は少ないのではないでしょうか。その裏には実質賃金が引き続き下がっているという事情がありました。この実質賃金がどういうものか、ファイナンシャルプランナーの篠田彰輝さんに話を聞きました。
ー実質賃金とはどういうものなのでしょうか
実質賃金というのは、「名目賃金指数÷消費者物価指数」で計算され、物価変動を考慮した賃金です。厚生労働省が公開している2024年5月分の毎月勤労統計調査では実質賃金は前年同月比で-1.4%となっており、26カ月連続で減少しています。
ー賃金上昇がニュースになっていますが、それでも実質賃金が下がっているのですね
その通りです。まず賃金指数に着目すると、厚生労働省が2024年7月8日に公表した2024年5月分の毎月勤労統計調査によると、前年同月に比べ、一般労働者の所定内給与が2.1%増、パートタイム労働者の時間当たり給与は3.2%増といずれも高い伸び率を示していました。
また一般社団法人日本経済団体連合会が2024年5月30日に公表した「2024年春季労使交渉・大手企業業種別回答状況(第1回集計)」では、月例賃金のアップ率は5.58%と1991年以来の5%超という高い数値でした。
いずれの結果も、賃金については上昇していることを示しています。それでも実質賃金が減少しているということは、消費者物価指数がそれ以上の高さで上昇しているということになります。実際に、各社が行った2024年3月の世論調査によると、いずれの調査でも8割を超える人たちが、景気回復を実感していないと答えています。
ー実質賃金が減少しているのは日本だけなのでしょうか
内閣府が公表している「一人当たり名目賃金・実質賃金の推移」を見ると、1991年から2020年までの30年間で、日本の実質賃金がほぼ横ばいであるのに対し、アメリカや英国は1.4倍以上、ドイツやフランスも1.3倍前後と大きく上昇していました。失われた30年という言葉を耳にしますが、このままでは30年どころでは済まないのではと思う人も多いのではないでしょうか。
大企業の給料アップのニュースを見ても、それ以上に物価の上昇が大きい状況では、実質賃金は上がらず、景気が回復したという実感が持てない現在。物価上昇を上回る賃金上昇が期待できないのであれば、資産運用や副業など、各自で対策を考えて自衛していくことが必要なのかもしれません。
◆篠田 彰輝(しのだ・あきてる)2級ファイナンシャル・プランニング技能士 小・中学生3人息子を持ち、自身の体験も踏まえたライフプランニングが好評。また趣味である落語をビジネスに活用するセミナーも実施している。