指定管理の「児童館長」で手取り月約15万円、賞与含めても年収250万円以下。物価は高騰、増税されるばかりなのに、10年以上勤めても年収は変わらない現実。そんな現状に対して世間にSNSを通じて訴えたのは、地方で児童館の館長を務める、さとうひろこさん(仮名)です。
公共の施設のトップでありながら、年収が250万円に満たないという衝撃の事実。SNSでは、「手取り15万!給料と仕事内容見合ってないんだよ!冗談じゃないよ!」「子供に関わる人の待遇が低すぎる。大変さに反比例してる」といった収入や待遇の悪さに驚く声が多数寄せられました。
ほかにも「子どもが小さかった頃、児童館のお世話になった一人の親として、憤り以外の感情が湧かない。地域社会の解体した現代社会で、児童館は子育てに必須のインフラなんだよ」などの怒りのコメントや「指定管理制度、この件に限らず現場は薄給、過重労働で大変なんだよね」「指定管理者制度は人を相手とする公共施設の管理にはそぐわない」という制度を批判する声も寄せられました。
なお、国税庁の「民間給与実態統計調査」(2021年12月31日付)によると、日本国内の給与所得者の1人あたりの平均給与は461万円。男女別では男性が567万円、女性が280万円の結果と比較すると、さとうさんの年収は約30万円少ない計算です。
年収が上がらない原因は何なのか。地域社会での児童館の役割も含めて、さとうさんに話を聞きました。
次世代にこの現状を繋いではいけない
――今回の、ご自身の現状を訴えられたきっかけは?
「指定管理制度の実態を知ってほしいという強い気持ちでした。専門性の高い職種についている人の中には、私のように年収が上がらない人もいます。これでは“官製貧困”と言われても仕方がない。これから専門職になろうとしている若い世代に、この現状を繋いでしまってはいけないと考えています」
――児童館とはどのような施設?
「0歳から18歳までの子どもなら誰でも利用できる、学校でも家庭でもない“第3の居場所”のような児童福祉施設です。児童館に集まる子どもたちが遊びを通じて仲間を作ることで、社会性や自主性、自己肯定感などを育む環境づくりを行っています。
ほか、各家庭の親子が安全で気軽に交流できるようにサポートしたり、希薄になってしまった地域社会と子どもたちを繋げる関係づくりにも力を入れたりしています。
ちなみに同じ児童福祉の“放課後児童クラブ(学童)”は、原則では、共働きなどで十分な保育ができない留守宅の子ども(小学6年生まで)を預かり、健全に育てる役割があります。一方で、児童館は子どもを預かって育てる保育機能はなく、どちらかと言えば子どもたちが集まれる場所を提供する意味が強いですね」
――館長の仕事とは?
「子供と接することが最も重要な仕事で、館長業務の8割にあたります。たとえば職員から『あの子、こんな様子でちょっと気になっています』といったように報告があると、その子が今どんな様子なのかを目視で確認しています。
残りの2割は職員のマネージメントや事務処理、行政や学校、地域との連携、調整、施策の企画などです。ケースによっては虐待を通報することもあります」
――児童館の利用者はどれくらい?
「1日に50~60人の子どもが来館しています。小学校1校あたり200人に満たない地域に当館がありますので、保育園児や中高生も含めても地元の子どもの約1/4が毎日来館しています。年間では2万人ほどですね。
職員は私を入れて5名です。1日に3名のシフトで勤務しているので、スタッフ1名で約20人の子を担当している計算になります」
――3名の勤務は現実的に厳しいのでは?
「確かに非常に厳しくはありますが、職員は館内を見回りながら目が届くように配慮していて、安心と安全を担保しています。
私たちは、中学生や高校生が小学校低学年の面倒を見るといったように、子供たちが自らルールやコミュニティを作る“斜めの関係”の環境作りに力を入れています」
予算は減ることはあっても増えることはない現実
――年収が上がらない理由は、指定管理者制度によるもの?
「あくまで当館の事情に限りますが、恐らく完全に民間運営であればこの年収にはならないと思います。
指定管理者制度とは、小泉内閣時代の平成15年に作られた、公共施設の管理・運営を民間事業者が担う制度です。民間の運営ノウハウによって、公共サービスの向上とコストカットを目的とする制度ですから、予算が減ることはあっても増加は考えにくいですね。
行政側としては指定管理者制度なしでの施設の存続はあり得ないでしょう。ただ今後、もしかしたら民間に施設ごと渡していくようなこともありうるかもしれませんが、公共施設である以上は“官製ワーキングプア”の状態のままだと思います」
――行政に来期の予算が削られると聞きました。
「行政が決め打ちで私たちの予算を決めています。その予算が、今期より約10%少なくなりました。今でも限界なのに、さらに減ってしまいました。人件費が最も高くつくので、来期どのように運営すればよいか頭が痛いですね。
行政が児童館の運営予算をカットした理由については、個人的には児童が少ない地域であることをふまえて、他にかかるコストよりも児童館が優先されてしまったのかな、と」
――「予算はカットするけれども、専門性はボランティアを使って、品質を担保してくれ」という話を行政から言われたとか。
「ボランティアさんが安心して活動するためにも、職員は絶対必要です。ボランティアさんと職員とでは、責任の重さも立ち位置も違いますし。
子供たちの動き一つ一つに責任がともなう私たちと同じように、ボランティアさんにも、その責任を背負ってくださいとはお願いできません。責任の度合いが全く違いますよね。
私達は一応その道のプロとして、プロの目線で子どもたちを見ています。子どもに遊ばせて、その中から課題発見をしていくのが仕事ですが、ボランティアさんにその課題を発見しろというのは違いますよね。
責任の度合いも、立ち位置も違うボランティアさんがいなければ回らないという現場は、運営上とても危険だと思っています」
◇ ◇
最後に、児童館の厳しい運営体制について、今後どのように変わってほしいか聞きました。
「子どもの政策を担う「こども家庭庁」が2023年4月1日から創設されることによって、児童館や子どもの居場所に対する考え方が大きく変わっていけばと期待しています。児童館が地域社会にとって重要な施設であることが意識づけされたなら、子どもの居場所を支える人たちをどのように支えていくのか、支援する仕組みを行政にはしっかり作っていただきたいですね」。
ツイッターには、このようなコメントも挙がっていました。「この手の話題がでると、必ずと言っていいほど「じゃあ転職すれば?」って言う馬鹿がわくんだけど給料安いで転職したらその仕事回らなくなるじゃん。介護とか保育とかアニメーターとか給料安い人がどうやったら高い給料もらえるかを国が考えなきゃダメなのに」。
誰かが抜ければ、別の誰かが同じ境遇に置かれることになります。そうではなく、根本的な解決が求められています。