したたかなグローバルサウスの外交 覇権争い続ける米・中・露に落胆 対立を逆手にとった天秤外交も

治安 太郎 治安 太郎

今日、ウクライナや中東では戦争が続き、台湾では依然として軍事的な潜在的脅威が漂っている。しかし、それらをよく見ると、どれでも大国が絡んでいる。ウクライナではロシアが戦争の当事者となり、米国などがウクライナを背後で支援している。中東ではイスラエルによるガザ地区への容赦のない攻撃が続き、米国はネタニヤフ政権に不満を募らせながらもイスラエル支持に立場を維持している。台湾では米中が紛争の当事者となる可能性が非常に高い。こういった状況に、ASEANやインド、アフリカや中南米などグローバルサウスの国々はどう感じているのだろうか。

グローバサウスは、本来世界のあらゆる問題でリーダーシップを発揮すべき大国が争い合い、むしろ途上国の経済成長の阻害要因になっていることに強い不満を抱いている。そういった声は相次いで聞かれる。たとえば、最近シンガポールで開催されたアジア安全保障会議、通称シャングリラ・ダイアローグの席で、インドネシア次期大統領であるプラボウォ国防相は、米中対立など地政学的な緊張の高まりにグローバルサウスは幻滅しており、大国は人類の共通の利益のために責任を持って行動するべきだとの認識を示した。プラボウォ国防相は昨年の同会議でも、米中対立を皮肉交じりに新冷戦と呼び、大国間対立の激化に強い警戒感を滲ませ、フィリピンのガルベス国防相も昨年のシャングリラ・ダイアローグで同様の見解を示した。

東南アジアの国々だけではない。グローバルサウスの盟主を自認するインドのモディ首相は2022年9月、ウズベキスタンで開催された上海協力機構の会議に合わせてプーチン大統領と会談し、今は戦争する時代ではないとウクライナ侵攻を明確に否定した。インドは伝統的に全方位外交を展開し、どの陣営とも癒着しない非同盟主義を貫くが、モディ政権もクアッドで日米豪との関係を重視する一方、エネルギー分野などではロシアとの関係を維持している。これも大国間競争とは一線を画す、それに不満を覚えるインドの現状と言えるだろう・

また、ウクライナのゼレンスキー大統領は昨年9月、国連総会の一般教書演説で講演し、諸外国が対ロシアで一致団結する重要性を示したが、グローバルサウスの国々の外交官たちの欠席、空席が目立った。一昨年、ゼレンスキー大統領はビデオ演説だったが、その時は外交官たちの間でスタンディングオベーションが起きたことから、この1年で“ウクライナ熱”が大きく冷え込んだことが考えられる。

グローバルサウスが大国の争いに強い不満を抱いていることは確かだが、反対にそれを巧みに利用し、実利を得ようとする思惑も見え隠れする。今日、米中は如何にグローバルサウスを自らの陣営に引き込むかで競争を展開しているが、グローバルサウスからするとそれを天秤にかけることができる。要は、中国に接近する姿勢を米国に示すことで米国から譲歩や支援を獲得し、反対に米国に接近する姿勢を中国に見せることで見返りを得ようという行動が可能だ。今後、こういった天秤外交を強化するケースがグローバルサウスの中から増えてくる可能性がある。

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