さまざまなネットメディアが生まれる中、有料メディアサービス「みんかぶプレミアム」が急成長している。月額990円で、資産形成状況レポートや証券口座の一括管理機能などが使えるほか、お金にまつわる記事を掲載する「みんかぶマガジン」も読める。2022年5月にサービスを始め、2年間で読者の規模が2万人を突破した。何が人々の心を射止めるのか、鈴木聖也編集長(36)に運営の裏側を聞いた。
課金のハードルを越えてもらうには
――まず、「みんかぶマガジン」が目指したものを教えてください。なぜ、お金に着目されたのでしょうか。
編集長を任された時、記事は資産形成を軸に考えてほしい、と言われていました。ただ、ストレートに資産形成や株の記事を出しても、有料会員を獲得するのは難しい。資産形成する人は何かしらの理由があって。老後が不安だったり、教育にお金が必要だったり、推しにお金を掛けたり…。読んだことをきっかけに、「お金って必要じゃん!」と納得してもらって、コンテンツを見てもらえる流れを作っていきました。
――記事はほとんどが有料で、無料では途中までしか読めません。日本では、記事に課金するというハードルが高くありますが…。
お金払うことにリターンがある程度明確じゃないと、課金してもらえないな、と思っています。お金を払うことによってこれくらい成長する、得られるものがある、とか。読み物として面白そうという形で課金されるよりは、読者をA地点からB地点に運んであげる。編集者の仕事は、導線で設計してあげることなのかな、と。
無料ニュースコンテンツだったら、クリックさせれば勝ちな訳ですよね。クリックするかどうかは本能的に考えていると思うんです。課金はクリックさせても、クレジットカード情報を登録する部分で必ず止まります。理性が働いた時、ペイウォールを超えたらあなたはこれくらい成長します、いいことがあります、というのを記事で見せて、ペイウォールを超えてもらえるか。二段階あって、まず本能的にクリックさせる。次に、文章の中で課金することによるメリットや動機付けを提示してあげることだと考えています。
ダメな投資家はダメな投資家として紹介すればいい
――具体的にどのような記事が読まれるのでしょうか。
一番は投資家の生の声、ですね。実際に、自分の金を使って金儲けした人、損した人の相場観や格言、決めているルール、哲学…。どんな本を読んでいるか、どんなメンタルで朝9時を迎えているか、そういう話が課金されます。自分のメリットに直結するからだと思うんですけど。
毎日ゴリゴリデイトレードしている、もしくはパソコンに張り付いてやっている人たちが何を考えているのかに課金してくれるのが多いですね。ダメな投資家はダメな投資家として紹介すればいい。最初の1千万円を作るために何をしたのか。この期間にこれはやった、これだけはやらなかった、と。今は、日本にいる投資家と名乗る人を全員取材してやろうと思っています。大変です(笑)
「良い記事だけど読まれなかったね」はみんな不幸
――普段はどんな体制で運営されていますか。どんな風にネタを決めていくのかも気になります!
僕と副編集長、業務委託3人で、月100本くらい配信しています。編集会議はやっていなくて、会話の中で決めています。例えば、旧ジャニーズ問題。最初は違う視点があれば書けばいいと思っていました。メンバーの一人に「ゲイの視点でジャニーズ問題を書ける人いないかな?」って相談したんです。そしたら、ゲイ雑誌元編集長のサムソン高橋さんの名前が挙がって。「ゲイから見たゲイ」という視点で、「ジャニー喜多川は本当は誰も愛したことがないのではないか」という記事を、2丁目での体験を基に根拠となるように仕立ててもらいました。バズって、唯一無二のオピニオンになりましたね。
――でも、全ての記事が読まれる訳ではないですよね…。
メディア業界ではよく「良い記事だけど読まれなかったね」ということがあると思うんですけど。携わった人が不幸だし、書いた人も不幸。そうさせないために、導線を練らないといけないと思います。
編集者の仕事は、世の中を驚かせることだと思っているので。本も読むし、映画も行くし、ふらふらするし、飲みに行くし。人脈を広げていくうちに、ライターや識者、変な人も紹介されます。何が今、人に読まれるのか、何に興味関心があるのか、常に追うようにはしています。
鈴木聖也(すずき・せいや) みんかぶマガジン編集長。1988年、前橋市生まれ、慶應義塾大学法学部卒業。共同通信社、プレジデント社などを経て22年から現職。
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多種多様なウェブメディアが生まれている昨今。さまざまな企業が参入し、誰もがコンテンツを制作できるようになりました。まいどなニュースもその一つで、今年4月17日に5周年を迎えました。どのようなニュースが読者のためになるのだろう…と日々、試行錯誤しています。新たな伝え方に挑むネットメディアに、運営の裏側や「メディアのこれから」について話を聞きました。