離婚後も父親・母親の双方に親権を認める共同親権を含む民法改正案は親側だけでなく、当事者である子どもたちの心に暗い影を落としています。
自身も2人の子を育てるシングルマザーで、ひとり親をサポートする活動を行う【Single Parent 101(シングル ペアレント ワンオーワン)】の代表を務める田中志保さんのもとには、「共同親権のニュースを見聞きし、不安で眠れない」「可決されたら生きていけない」など子どもからのSOSが寄せられています。
今国会で可決されると、2年後の2026年までに施行となりますが、「共同親権の受益者である子どもが置き去りの法案は、子の利益にならない。なんとしても、法案可決を食い止めたい」と田中さん。子どもにとって不利益な点を聞きました。
子どもが意見を表明する機会を奪っている
法案反対の立場を表明している田中さんは、「子どもの人生を子ども自身のものとする機会を奪っています。子どもは親の付属物ではないのに、親が子どもの人生を支配する危険がある」。
2023年4月施行の子ども基本法では子どもの意見表明機会の確保・子どもの意見の尊重が基本理念として掲げられていますが、共同親権法案では、ここが明示されていません。
両親の意見が協議で整わない場合は、家庭裁判所が決めるという建付けなのです。これを知ったひとり親家庭の子どもは、「ひとり親家庭の子どもには基本的人権がないのか?これは憲法違反ではないか?」と声を震わせて田中さんに言ったと話します。また、「先日地元の大学の法学科に通うひとり親家庭のお子さんと会った際に“共同親権は別居親のための権利だと思う!”と言っていたのですが、本当にそうだと思います。子どもに寄り添っていません」。
命に関わる子や失踪を選ぶ子どもや内密出産が増えるのでは
衆院での可決を受け、大阪弁護士会、兵庫県弁護士会、広島弁護士会などをはじめとする専門家が慎重かつ十分な審議を求める声明を発表。「子どもにとって不利益な点」が指摘されています。
<子どもにとって不利益な点>
●未成年の子どもの保育園入園、小学校や中学、高校などへの進学、習いごと、手術やケガの治療など医療、アルバイト、引っ越しなどさまざまな局面で離れて暮らす親の同意を必要とする→同意がない場合、子どもの希望が叶えられない。ときには命の危険にもなる
●離婚しても、両親の収入を合算する→高校の無償化など就学支援の機会を奪われる
双方が協議すれば…と簡単に思えるかもしれませんが、広島弁護士会が「離婚を選択する父母は、一般的に関係が悪化していることが想定される。中には、協議をすることが難しい、会話すらできない父母も存在する」と現実的な関係性を指摘し、「子どもの進学、医療などに支障が出るおそれがある」としています。
実際、厚生労働省(2021年度)の調査では、離婚した父親からの養育費を受給できている母子世帯は28.1%、ほとんどの母子世帯は子どものために必要な養育費を受給できていない状況が伺えます。
また両親の協議が整わない場合について、大阪弁護士会は、「家庭裁判所に多くの判断が委ねられ、家庭裁判所が定めるべき事項が多く規定されているが、現状においても、増加する家事事件に対して、人員配置や設備の改善は追いついていない 」と、対応が追いつかないことを訴えます。
そんな状況で特に、田中さんが心を寄せるのが虐待やDVから逃れてきた親子。【Single Parent 101】では、離婚後の共同親権に関する子どもの意見を募集しており、不安を綴るコメントが数多く届いていると言います。
「父親の暴力を受けてきた子どもは父親に恐怖心しか持っていません。法案が可決されて、あんな奴の子どもとして生きていかなくちゃならないのなら…と自殺をほのめかす子、離婚したものの父親との面会交流によって自傷行為を行うようになり心療内科に通院するようになった子を持つお母さんからの声など、不安の声しかありません。共同親権法案は、そのような悩みや不安を抱える親子に寄り添った内容になっているのでしょうか」と問いかけます。
共同親権は、進学などの重要な局面でも問われ、すでに離婚している家庭も対象になります。そうなった時、ひとり親家庭の子どもは、両親の意見が整わない場合は常に家庭裁判所に人生の決定権を握られる生活が続き、子どもが自分が望む子ども時代を過ごすことなく大人にならざるを得ないのではないか?と話します。
実際に施行となったら、子どもたちはどうなるのか?の問いに「将来を悲観して、自らの生死さえも問う子が増えるのではないでしょうか。また、かつてDVを受けた相手から逃れるために、あえて失踪する親子も出てくるでしょう」と予測。
失踪の場合は、「転居届などを出せないまま行方をくらますので適切な教育や就労の機会が奪われる可能性もあることに加え、失踪を手助けした人や団体が片方の親から訴訟されるケースも出てくるのでは?」と言います。
また、日頃からDVに悩まされ、妊娠した女性が共同親権を恐れ、婚姻関係や親子関係の認知を望まず、秘密裡に子どもを産む“内密出産”の増加もあるかもしれないとのこと。子どもが相手との「鎖」になることを恐れ、中絶を選ぶケースの増加、そもそも「子どもを持つこと」を選択する人たちの減少もあるのではないか?とも考えています。
しかし、「おそらく、政府はこの法案が及ぼすさまざまな事例を想定していないでしょう。国会の法務委員会での法務大臣や法務省の答弁を聞いていても、「大丈夫だ」の一点張りで現実味がありません。具体的な運用を決めないまま、自治体や家庭裁判所など現場任せにしようとしているのです。現場は混乱し、しわ寄せは子どもに向かいます」。
「海外では既に共同親権を施行している国が多く、日本は遅れているとの声も聞こえます。しかし、海外の「共同親権」と呼ばれるものは、いま日本で議論されているものと概念が違い、親責任を分担するものなのです。またほとんどの国で子どもの監護者は同居親であり、現在の日本の単独親権制の運用と際立った差がありません。離婚後は、ほとんど同居親の下で過ごし、必要に応じて、別居親と交流しています。養育費の不払いは刑罰の対象になる国もあります。一方、日本の共同親権法案では子どもの監護者を定めていませんし、DV加害者でも親権申し立てが可能です。また、養育費の不払いも刑罰対象ではありません。日本がやろうとしているような共同親権を採用している国はないんです。それぐらい未知のものなのに、充分な議論がなされず、離婚後共同親権導入反対の署名22万筆を提出したにもかかわらず、その声を無視して法案成立をめざしているのがおかしいのです」と田中さん。
田中さんのもとには、ある女性からの声が届いています。
「小5の時に、両親が離婚。家庭裁判所で両親が親権を主張しましたが、母から妹への暴力が原因で、私たち姉妹の親権者は父になりました。離婚後、父は私たちを虐待したため、今は父から離れ、身を隠しています。大人になって、母は父から精神的暴力や身体的暴力を受けていたということがわかりました。父から母への暴力が妹に向かい、DVが連鎖していたのです。共同親権下だったら私たち姉妹が助かったとはとても思えません。共同親権は暴力や虐待を救えません。
反対の声があふれる中で法案成立を急ぐ人たちの主張だけを聞き入れる共同親権なんておかしいです。子どもたちの声をしっかり聞いて欲しいです」。
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【Single Parent 101(シングル ペアレント ワンオーワン)】では、離婚後共同親権に関する、こどもの意見を募集。当事者である子どもの立場からの声を集めています。
また、田中さんも参加する【『離婚後共同親権』から子どもを守る実行委員会】では、5月8日(水)18時〜19時半まで国会正門前に集まり、デモを行います。このデモは遠方で現地参加できない人に向けてYouTubeでライブ配信。
ネット上で署名活動も続行しています。
【Single Parent 101(シングル ペアレント ワンオーワン)関連情報】
■田中 志保 Shiho Tanaka X(旧Twitter)@shiho101tanaka
■公式サイト https://singleparent101.localinfo.jp/posts/52776589
■facebook
https://www.facebook.com/singleparent101szk/about
■#STOP共同親権 〜両親のハンコなしでは進学も治療も引越しもできない!実質的な離婚禁止制度〜共同親権第2弾署名 https://www.change.org/p/stop
■【生中継】 #ちょっと待って共同親権 国会前集会(2024年5月8日18時スタート予定)