大都市の海で育つ「ご当地サーモン」…神戸元気サーモンの挑戦 地産地消でブランド化、育てる漁業へシフト

山口 裕史 山口 裕史

全国各地でご当地サーモン(マス)の養殖が盛んになりつつある。そのなかで後発組としてサーモンの養殖に挑んでいるのが神戸・東須磨漁港の漁師6人でつくる「東須磨サーモン部会」だ。都市型漁業の強みを生かし「神戸元気サーモン」と名付け、ブランド化に挑む。同部会の奥谷知生さんの船で養殖マスの生け簀まで同行し、話を聞いた。

奥谷さんはサーモンへのエサやりのため、毎日のように生け簀に足を運んでいる。「今シーズンから自動給餌装置を設置したのでわざわざ来る必要はないんですけどね。こうやってサーモンが元気に成長していく姿を見るのが楽しくて」と、日焼けした顔をほころばせる。昨年12月、水温が18℃以下になったのを確認してから稚魚を生け簀に投入し、丁寧に育ててきたサーモンは、3月下旬に迎える出荷時期を控え順調に育っているようだ。

高校を卒業してから漁師の道に進んだ奥谷さんは、神戸・須磨の沖合で約40年にわたって底引き網漁を続けている。だが、漁獲量のピークは30年ほど前までさかのぼらないといけないという。「船のエンジン馬力がどんどんパワーアップして、より大きい、より目の細かい網が引けるようになって、小さい魚まで根こそぎさらえるようになりました。そこに埋め立て、温暖化、海水の貧栄養化も加わり、漁獲資源が減ってしまったのかもしれません」。

兵庫県から宍粟市産のマスの養殖をしてみないかと打診があったのは6年前のこと。全国でご当地サーモンの成功事例が増えつつあったタイミングをとらえてのことだった。奥谷さんが所属する「東須磨底曳き会」のほか近隣の漁師仲間も手を挙げ、養殖マスの挑戦が始まった。「まったくゼロからのスタート。1年目はサーモンをどう海に馴れさせるかで苦労しました」と語るが、年々、サーモンの飼育数を順調に増やし、「神戸元気サーモン」と名付けてブランド化。神戸市内のフレンチ、イタリアンのレストランで採用が進んでいる。

2023年には「福寿」ブランドの酒造会社、神戸酒心館とタッグを組み、エサに酒粕を混ぜる試みを始めた。「全国にご当地サーモンがある中で、神戸らしさを打ち出したかった」と奥谷さん。通常のエサを与えたマスよりもオレンジ色の発色が鮮やかで、コラーゲンを構成するアミノ酸の1種であるグリシンの含有量は2倍に増えた。神戸酒心館の飲食店「蔵の料亭さかばやし」では昨年に続き今年も「神戸元気サーモンと吟醸酒を楽しむ会」を開く。

大都市に近い漁港ならではのブランド化にも取り組んでいる。5月に東須磨漁港で開く食のイベント「第2回浜ごこち」では、同港で水揚げされた魚とともに神戸元気サーモンも並べPRを図るほか、同サーモンを扱う鮮魚店の情報についてもSNSなどを活用して発信していく。「都市部のすぐ近くに漁港があり、そこでおいしい魚が獲れることを多くの人に知ってもらうことで地産地消を広めていきたい」と話す。

神戸市漁協の組合員数、つまり漁師の数は200人ほどにまで減っているのが現状だ。奥谷さんは「獲る漁業」から「育てる漁業」へとシフトを進めていくことが、若い人に漁業に興味を持ってもらう入口になるとも考えている。「底引き網漁は労力が要り、夜に漁をしないといけないなど時間の制約も多い。その点、養殖は時間の拘束がなく、順調に事業化できれば安定収入にもつながります」。漁業に身近で触れることのできる都市型漁業の強みを生かした挑戦が続く。

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