「スーパーで久しぶりに『野生のクロワッサン』を見つけた」ーーパリ在住の日本人男性「ぶどうむし」さんがX(ツイッター)に投稿した1枚の写真がネット上で話題を呼んでいます。スーパーの冷凍ショーケースの上に、むき出しのクロワッサン2個が鎮座しているのですが、野生のクロワッサンとは一体、何なのか。投稿したぶどうむしさんに聞きました。
会計前に気が変わった?
ぶどうむしさんが「野生のクロワッサン」を見つけたのは、パリ市内にあるディスカウントスーパー「Lidl(リドル)」のアイス売り場。
「野生のクロワッサンとは、本来あるはずのない場所で見つかる謎のクロワッサンを指します。このスーパーには焼きたてパンの売り場があるので、おそらく買い物客の誰かが買い物かごに入れた後、気が変わって置いていったものだと思われます」
会計前の商品を売り場とは別の棚などに放置する行為は日本のスーパーでも問題になっており、たびたび取り沙汰されます。しかしそれが未包装のクロワッサンというところにパンの国・フランスを感じずにはいられません。
これまでも同スーパー内では何度か見かけたそうで、ワイン売り場やクリスマスツリー売り場など「あらゆる場所に出没します」。種類もバラエティー豊かで、「クロワッサンに限らず、バゲットやパンオショコラ、サンドイッチが落ちているのを見たこともあります」。
歩道の上、地下鉄の改札機…あるはずもない場所で
「野生のクロワッサン」現象は購入後にも起こるそう。ぶどうむしさんが初めて目撃したのはパリに渡って1カ月が過ぎた頃、ある意外な場所でした。
「家族とショッピングモールのエレベーターに乗った時、エレベーターの床の隅に落ちているクロワッサンを見て度肝を抜かれました。最初は訳がわからなかったのですが、パリの人々は買ったばかりのパンを路上でかじりながら歩くことが多く、また店頭で買い求めたパンも紙袋にサッと入れてそのまま渡されることが多いことから、落としたり食べ飽きて置き去りにすることが多いのかなと納得しました」
その後も月に一度は見かけるといい、「歩道の上でかじりかけのまま落ちていたり、リュクサンブール公園の噴水近くにあるベンチで濡れネズミになっていたり、地下鉄の改札機の上に置かれていたりと、実に神出鬼没です」。
出くわす回数の多さに、ぶどうむしさんは「ひょっとするとパリ市民とパンの距離感の近さによるものと言ってもよいかもしれません」とし、「パリの人々にとってパンは本当に身近な存在で、市内にはコンビニが存在しない代わりに数百メートルおきにパン屋があり、朝6時頃から営業している店が多いです。パン屋で買うと1つ1.5〜2.5ユーロ、スーパーだと1ユーロくらいで手に入ります。スーパーで発生する野生のクロワッサンも、決してマナー上よいとは言えませんが、パンが身近な存在すぎて、ついぞんざいに扱ってしまった結果ではないでしょうか」と分析します。
ぶどうむしさんが投稿した写真は、SNS上で表示回数が6万回を超え、じわりじわりと拡散が続いています。
「最近では、フランボワーズが練り込まれた赤いクロワッサンが人気を集めていますので、投稿を見た方はぜひパリにお越しになり、クロワッサンを頬張りながら野生のクロワッサン探しに挑戦してみていただけるとうれしいです」(ぶどうむしさん)
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クロワッサンの発祥地には諸説ありますが、日本のパン製造販売「ドンク」(本社、神戸市東灘区)の公式サイトによると、「クロワッサンとは『三日月』という意味。クロワッサンといえばフランスのイメージですが、その歴史はウィーンに始まります。(中略)その後、マリーアントワネットとルイ16世の結婚によってフランスに伝えられたとも言われています」。パン食普及協議会のサイトにも「歴史は17世紀のオーストリア・ハンガリー帝国の首都・ウィーンに始まります」とあります。