仏教を題材にした漫画「ヤンキーと住職」を僧侶の男性が出版した。檀家(だんか)との関係や布教で悩む中年の住職と、仏教に親しむこわもての若者とのユニークな交流を描いた作品。2020年春からSNSで発表して話題になり、本にまとめた。作者は「漫画で仏教について伝えられることは本当に少し。漫画をきっかけに本を読み、広い世界にふれてほしい」と話す。
漫画の主人公は2人。35歳の住職は、檀家の離脱や寺の運営に悩んでいる。ヤンキーは家庭環境や生い立ちに悩む中で仏教に出会い、服には「天上天下唯我独尊」の文字を縫い付けている。寺の前で出会った2人が、「諸行無常」や「卑下慢(ひげまん)」など仏教の話題を通して、交流を深めていく。
作者は浄土真宗本願寺派の僧侶で、京都女子中・高非常勤講師の近藤丸さん(39)=京都市下京区。龍谷大大学院博士課程に在学している。出版した本には、2020年春から自身のSNSや本願寺派のインスタグラムで発表した作品に加え、ヤンキーの生い立ちやブッダ(釈迦(しゃか))の生涯を描いた漫画も書き下ろした。
住職とヤンキーと同じように、近藤さんも悩みながら歩んできた。
富山県入善町出身。中学のとき、身近な人が亡くなり、厳格な父にも反発し、生きる理由が分からなかった。だが、お経を聞いているときは気持ちが落ち着いた。手塚治虫さんの漫画「ブッダ」を読み、仏教の世界観に衝撃を受けた。
東海大工学部(神奈川県平塚市)に進学したが肌に合わず、悩んだ末に飛び込んだ東京都内の「坊主バー」で、僧侶と出会った。法話を聞き、本願寺派の東京仏教学院に入学。27歳で得度して龍谷大大学院で学び、京都女子中・高や九州の中学、高校の非常勤講師として宗教の授業を受け持った。
20年春、実家に帰り、仏教をテーマに漫画を描き始めた。SNSで発表すると、大きな反響があった。だが一方で、漫画で仏教を扱うことに葛藤を抱えた。「仏教を漫画で面白おかしく伝えたり、分かりやすく伝えることで、大事なものがこぼれ落ちるのではないか。成功哲学や知識の一つとして消費されていくのは意味がないし、むしろ危うさがある」。本には仏教に興味をもった人のために、参考文献リストや、カルトについて記したコラムも盛り込んだ。「仏教は悩む人の答えを出しているわけではない。自分はどういう風に歩めばいいのだろうと考えるヒントにしてほしい」と話す。
KADOKAWAから出版。1320円。