夫婦とは、生活は共にしていても、必ずしも「夫婦の時間」を確保しているわけではありません。仕事や家事、子育てなど、それぞれのペースが異なる中で、ほんのわずかなすれ違いが積み重なり、やがて大きな溝になっていくことも少なくはありません。
とくに「朝型」と「夜型」という生活リズムの違いは、夫婦関係に小さなストレスをもたらすもの。結婚20年を迎えた神奈川県在住Oさん夫妻も、「夜の夫婦の会話問題」で、夫婦の時間のすれ違いが年々大きくなっています。
23時から始まる夫の「語りタイム」
Oさん(48歳)は夜に弱く、ずっと朝型の生活です。夕食を終えると食器を片づけ、子どもたちそれぞれのスケジュールの確認を済ませ、お風呂に入って寝る支度をする。すべてが整うのは23時頃。そこから30分ほどで就寝するのが、Oさんの理想のリズムです。朝は5時半に起床し、子どもたちのお弁当作りをするのが日課です。
一方、Oさんの夫は完全な夜型。仕事が終わってようやく一息つけるのが夜の21時過ぎ。夕食をとってからはソファに横になり、スマホでゲームをしたり動画を見たり。まるで「やっと自分の時間が来た」と言わんばかりに、夜が深まるほど元気が出てくるタイプです。
そんな夫が、いちばん話したくなるのが23時頃。
「ねえ、来週の土曜、どこ行こうか」
「そういえばさ、今日職場でのことなんだけど」
「海外旅行、子どもが大きくなったらどこ行こうか」
Oさんが布団に入ろうとしたまさにそのタイミングで、夫のトークスイッチが入ります。眠気でまぶたが重くなるOさんは、なんとか相槌を打ちながらも、心の中ではこう思っています。
「そんなに話したいなら、夕食の時に言ってくれたらいいのに……」
「話を聞く妻」から「寝たふりをする妻」へ
結婚当初のOさんは、夫の話をできるだけ聞いてあげようと努力していましたし、Oさん自身も子どものことなどで話したいこともありました。「今日、会社でこんなことがあってね」「今度公開されるあの映画が面白いみたいだよ」など、他愛もない話題にも丁寧に耳を傾けてきました。
しかし、子育てが始まってからは状況が一変。授乳や夜泣き、保育園の準備に追われる毎日で、22時以降はただ「寝たい」の一心です。夫が話しかけてきても、「明日早いから」と言いながら、会話を切り上げて布団に潜り込むようになりました。
それでも夫は、Oさんが寝室へ向かう気配を察すると、「ちょっとだけ!」と話しかけてくるのです。それなら、とOさんは 「じゃあ、子どもの寝かしつけお願いね。私はまだ片づけがあるし洗濯もしないと」と、夫に子どもの寝かしつけを任せたのです。
しかしその45分後、リビングに戻り、再びテレビとスマホゲーム。
子どもを寝かしつけたまま一緒に寝てくれて良いのに、夫だけ起きて戻ってきていました。
「子どもは寝たよ。でさ、来週の予定なんだけど」
Oさんは悟りました。内容はともかく、「誰かと何かを話したい」のだと。
会話のタイミングがズレると、心の距離もズレる
人間の体内時計は遺伝的な要素も強く、「朝型・夜型」は簡単には変えられません。しかし、生活を共にする夫婦の場合、そのズレがコミュニケーションのズレにも直結します。
Oさんは夜中に話しかけられるのがつらくて、寝たふりをする。すると夫が「最近、全然話してくれない」と拗ねてしまうのです。悪いのはわかっているのですが、眠気には勝てません。
夫にとって、夜の会話は一日の疲れを癒す心のリセットのようなもの。 一方で妻にとっては、一日の締めくくりにようやく訪れる静かな休息時間です。
どちらも間違っていないけれど、タイミングが合わないだけで、心のすれ違いが生まれてしまいます。
「話したい」を「LINEで残す」に変えてみるが
そんなOさんが夫に提案したのは、「夫婦LINE」という方法でした。
LINEに夫が話したかったことや提案を送る。Oさんも自分のタイミングでLINEを読んで、返信するというシンプルな方法です。
結局、そのLINEが連絡事項のやり取りに終わったのは言うまでもなく、夫が満足するわけはありませんでした。
朝早く起きてくれればいいのですが、朝は戦闘態勢なので夜以上にゆっくり話を聞くこともできず、結果的に迷惑度は倍増です。
夫婦円満の秘訣は「時間を合わせる」ではなく「気持ちを寄せる」
夫婦の生活リズムが違うのは自然なことです。
どちらかが無理をして相手に合わせるのではなく、「お互いのリズムを尊重したうえで、どう気持ちをつなぐか」を考えることが大切なのかもしれません。
「結局、夫は夜に話したいというより、私と何かを共有したいんだと思うんです。だから今日はもう眠いけど、思いついたことはLINEで送っておいて。そしたらその話題について週末はちゃんと話そうね」と夫婦の時間を作るようにしたら、少しずつ落ち着きました」
夜型夫と朝型妻。
同じ屋根の下にいても、すれ違う時間をどう過ごすか。その工夫こそが、長く続く夫婦関係の「静かな努力」なのかもしれません。