「季節外れ」といわれるインフルエンザの流行が続いています。現在の状況や要因、対処法、そして、かねてより続く医薬品不足の現状と解決策などについて、考えたいと思います。
流行地域や年代は?
インフルエンザについて、厚労省は、全国約5000カ所の定点医療機関から報告された患者数を集計し、1週間で1機関当たり「1人」を超えれば流行と判断しています。
2023年第36週(9月4~10日)の定点当たり報告数は、4.48となり、前週の報告数2.56よりも増加しました。
都道府県別では、沖縄県(13.43)、長崎県(8.80)、千葉県(8.58)、福岡県(7.56)、宮城県(7.34)、山口県(7.00)、徳島県(6.86)、佐賀県(6.16)、宮崎県(6.14)、東京都(5.95)、埼玉県(5.94)、熊本県(5.64)、神奈川県(5.45)、愛知県(4.89)、愛媛県(4.85)、静岡県(4.79)、三重県(4.62)の順となっています。
基幹定点から報告された、インフルエンザによる入院患者数は197例であり、前週集計時点(148例)から増加しています。
全国の医療機関を受診した患者数を推計すると、約15.1万人となり、前週の推計値(約8.8万人)よりも増加しています。年齢別では、0~4歳が約1.5万人、5~9歳が約3.7万人、10~14歳が約2.5万人、15~19歳が約2万人、20代が約1.6万人、30代が約1.2万人、40代が約1.2万人、50代が約0.7万人、60代が約0.5万人、70歳以上が約0.3万人となっています。
若年層の感染が目立ち、厚労省によれば、保育所・幼稚園・小中高等学校において、9月第1週(4~10日)で、休校10、学年閉鎖156、学級閉鎖627と報告されています。
流行の要因は?
最大の要因は、新型コロナウイルス感染症の流行の一方で、インフルエンザは、2020年春から22年秋までほとんど流行しておらず、ワクチン接種率も低下したため、インフルエンザに対する免疫(自然感染及びワクチン接種による免疫)が大幅に低下していることと考えられ、夏休み明けで学校が再開したことや、新型コロナの5類移行に伴う感染対策の緩和、インバウンドの増加等も関係していると思われます。
ただし、私たちはウイルスと共存していかねばなりませんので、コロナの感染症法上の分類を変更したことや、感染対策を緩めて社会経済活動や日常生活を回していくことが、わるいというようなことでは全くありません。
また、少しでも国際的な人の往来があれば、ウイルスは必ず流入してくるものであり、訪日客の訪問場所の上位地域(東京、大阪、千葉、京都等)と、現在のインフルエンザの感染者数の多い地域が必ずしもリンクしていないことからも、インフル流行に関するインバウンドの増加の寄与度は不明確であり、いずれにしても「日本に来る観光客が悪いんだ!」といった言説は避けるべきと思います。
対処法は?
インフルエンザに罹患すると、ウイルスの型にもよりますが、悪寒や頭痛、関節痛、筋肉痛、高熱などの全身症状が出ますので、こうした場合は、速やかな医療機関の受診をお薦めします。
子どもではまれに脳症を引き起こしたり、高齢者などでは肺炎を起こしたり、重症化することがあります。
インフルエンザには、タミフルやリレンザといった治療薬があり、新型コロナの治療薬と違って「対象はハイリスク者のみ」といった厳格な制限はありません。ただし、発症してから48時間以内の服用が必要ですので、早めの受診が必要になります。
また、10月からインフルエンザワクチンの接種が医療機関で開始されます。
(※)インフルエンザワクチンは、毎年、流行しそうな株(4つ)を予測して、WHOが推奨株を選定し(2月)、それを受けて厚労省が株を決定し(4月)、同時並行で、メーカーが鶏卵の中でウイルスを培養し、数か月かけてワクチンを製造する、という過程が必要なため、基本的に、秋以降にしか接種ができません。
もちろん、ワクチンの接種は、それぞれの方のご判断です。
なお、65歳以上の高齢者の方等については、予防接種法上の定期接種として、無料または公費一部負担で接種ができます。お住いの自治体の情報をご確認ください。
感染症全般について同様ですが、こまめな手洗い・うがい、換気、状況によってマスクをつける、体調の悪いときは無理をしない、規則正しい睡眠や食事を心がけるなど、基本的な感染対策が有効になります。
医薬品不足の現状と課題
こうした中、我が国では、医薬品が足りないという現象が、2021年からずっと続いています。皆さんも、医療機関で処方箋を受け取り、調剤薬局に行ったら「その薬は、現在ありません。」→「別の〇〇に変更してもいいですか」「入荷次第、ご連絡します」「入荷の目途は立っていません」といったことを言われた経験のある方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
患者さんの不安や不便はもちろんのこと、現場の薬局や薬卸の事業者の方々は、不足薬の調整に奔走し、業務に大きな負荷がかかっています。
よく処方される咳止めや解熱剤などの不足が目立ちますが、日本製薬団体連合会が、2023年8月に実施した調査によると、薬価収載されている全ての医薬品17,450品目のうち、現在、限定出荷や供給停止になっているものは、全体の22.9%、先発医薬品(2,529品目)では7.1%ですが、ジェネリック医薬品(※)(9,077品目)では32.3%になっています。
(※)ジェネリック医薬品とは、新薬の特許が切れた後に製造販売される新薬と同じ有効成分を含む医薬品で、巨額の開発費がかからないため、価格を安く抑えられます。
こうした医薬品不足の背景には、2020年以降、複数のジェネリックメーカーによる品質不正問題などが発覚し、業務停止命令が相次いだことがあります。工場の製造や出荷の行程に問題が無いか等の確認に時間がかかり、本格的な出荷の再開には至っていないところもあります。
ジェネリックメーカーは、経営基盤の弱い中小企業が多く、個々の会社の生産能力は高いとは言えません。採算が取れないほど低価格に設定された薬もあり、生産自体を停止してしまうケースも続いています。
ジェネリックは、そもそも、国が医療費抑制の切り札のひとつとして、使用促進を強力に推し進めてきました。不十分な製造能力の会社の参入や過度な価格競争等が生じ、また、度重なる薬価(政府が決める統一的な公定価格で、市場の実勢価格に合わせて改定されます。)の引き下げも相まって、結果として、医薬品の安定的な供給を難しくしてしまっています。
ジェネリック業界は、撤退や合併などの業界再編も必要と言われますが、そこに至った経緯も踏まえる必要があると思います。医薬品という、国民の生命や心身を守る重要な製品の供給について、国は、市場・事業者任せにするのではなく、国民生活を守る観点から、責任を持って、主導的に環境整備を進めることが必要だと思います。
また、患者さんサイドとしても、予防可能な疾病については対策を取るとともに、「複数の医療機関を受診して、薬を重複して受け取り、余らせてしまう」といったことがないように、薬の適正使用を心がけていただくことが、結果的に、国民一人ひとりの安全安心を守ることにつながっていくと思います。