福島第一原発の処理水放出に、なぜ中国は過剰に反応するのか 背景に…積もり積もった「日本への強い政治的不満」

治安 太郎 治安 太郎

日本が福島第一原発の処理水放出を開始したことで、日中間で摩擦が拡大している。中国政府はそれへの対抗措置として日本産海産物の輸入を全面停止にすると発表した。東北や関東だけでなく、その範囲が北海道や沖縄まで拡大したことに大きな動揺が走っている。

処理水放出について、米国や欧州、韓国や南太平洋など他の国々は容認、問題はないというスタンである。韓国でも一部反対勢力が抗議デモを行っているが、ユン政権は処理水放出を容認する姿勢だ。これまでのところ、これに真っ向から反発しているのが中国であるが、なぜ日本産海産物の輸入を全面停止という過剰な対抗措置を取ってきたのか。この措置は科学的根拠もなく、その背景には近年溜まりに溜まり続ける「中国の日本への強い政治的不満」がある。それを最も助長しているのが「台湾」と「先端半導体」だ。

台湾を巡り、蔡英文政権は米国を中心に欧米との結束を強化しているが、最近は日本の政治家らとの結束も密になっている。筆者もここ数年台湾のシンクタンクや大学と共同研究することが増えているが、そういった中には蔡英文氏に近い人物、元大物政治家などがいることも少なくない。

台湾有事については日本国内でも懸念が広がっているが、日本政府もそれを想定した邦人避難などで台湾政府との協力を進め、南西諸島では自衛隊のプレゼンス強化、シェルター設置などを急ピッチで進んでいる。こういった日本側の対応に、中国は「反中的行動」として不満を募らせている。

そして、昨年以降の先端半導体を巡る動きも影響しているだろう。バイデン政権が昨年秋、中国によって軍事転用される恐れから先端半導体分野で対中輸出規制を開始したが、日本も米国の要請に答える形で7月下旬から先端半導体23品目で輸出規制を開始した。

半導体に限らず、スーパーコンピューターやAIなど先端分野を巡って米中の競争は激しくなるばかりで、中国としては先端半導体を是が非でも獲得したいなか、米国と足並みを揃える日本への不満は強まるばかりだ。

しかし、日本への不満が積もりに積もったとしても、中国としても対抗措置をドミノ現象のように次々に打ち出すことはできない。

日本への経済制裁を次々に強化すれば、返って他の国々から対中警戒論が強まり、中国経済にとって大きなマイナスにあるリスクがある。よって、中国は何らかの正当性を見つけようとする。それが福島第一原発の処理水放出だ。

既に多くの国々や国際機関が問題なしと発表している中、処理水放出は対抗措置の正当な理由には客観的にもならないが、今回、中国はそれを利用する形で日本へ強烈な不満を示したのだ。

今日、中国国内のSNS上では反日的メッセージに対して何ら規制はなく、普通に見える状態だという。これは中国政府が市民の反日感情を黙認しているに等しい。中国は今後も「正当な理由」を見つけ、それを「根拠」にして強い対抗措置を講じてくることだろう。

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