仕事でうつ病に…「生きていていいのか」と思い詰めた日々 自信を取り戻したきっかけは「コーヒー」 口コミでファンが続出した理由は

京都新聞社 京都新聞社

 焙煎士の仲野清昭さん(49)=京都府向日市寺=は、自宅に設置した小さな焙煎(ばいせん)機で、日々、コーヒー豆を焙煎し、販売している。高品質のスペシャルティコーヒーや、若竹をイメージした「乙訓(おとくに)っとブレンド」、チョコレートのような風味がある水出しコーヒーなどが好評で、一昨年夏の開業以来、市内外にファンを増やしている。

 兵庫県出身で、立命館大を卒業後、自然環境コンサルタント会社に入社した。学生時代のアルバイトを含めると、十数年間勤めたが、仕事があまりにも忙しく、うつ病を患った。療養は数年間に及び、一時は「生きていていいのか」とまで思い詰めた。

 退職後、京都府長岡京市でカフェを運営する一般社団法人「暮らしランプ」(京都市)の就労継続支援B型事業所に通所を始めた。そこで出合ったのが、コーヒーの焙煎。技術を学ぶうち、元気だったころにコーヒーが好きだったことを思い出した。「楽しいわ、これ」。週1、2日からスタートした通所が徐々に増え、自信を取り戻した。

 妻梓さん(46)の仕事が新型コロナウイルス禍で打撃を受けたのを機に、2人で焙煎所を立ち上げようと一念発起した。主治医は「やりたい気持ちがあれば、そこがスタート」と後押しした。

 口当たりがやわらかく、香りや甘みの余韻を感じるコーヒーを目指す。産地や焙煎方法、ブレンド比率などを調整し、1年間をかけ、マイルドな味わいの「ピースブレンド」を作り上げた。「苦みと酸味が絶妙なバランス」という自信作だ。

 パッケージには、店名の由来で、猫が前足を「クニっと」曲げ、くつろいでいる姿を印刷した。京都造形芸術大(現・京都芸術大)出身の梓さんが描いている。

 近所の酒店に起業を伝えると、商品を置いてもらえることになった。口コミで委託販売先が増え、女性活躍センター「あすもあ」のマルシェにも出店。昨夏にはジェイアール京都伊勢丹(京都市)の催事に参加した。向日市内でハーブティーカフェや花屋とのコラボカフェも開催する。

 最近、より大型の焙煎機の購入を検討するようになった。「あきらめずにやっていれば、何か一つはものになると分かった。勇気をもらったと言ってくれる人がいるのがうれしい」と笑顔を見せる。

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