あこがれの仕事で、上司の理不尽な指導→気づいたら「うつ」 悩み苦しんだ経験を漫画に「心救われました」「見習いたい」…発信する理由を聞いた

谷町 邦子 谷町 邦子

新年度も2カ月目となり、多くの人にとって心身ともに疲れが出て、「5月病」と呼ばれる不調が出る人も多い季節。「職場や学校に行くのが辛いけど頑張り続けるべき?」と迷う人もいるのではないでしょうか。そんな悩みに対するヒントを得るために、自分の体験談と対処法をSNSで発信する、なおにゃん(@naonyan_naonyan)さんにお話を聞きました。

なおにゃんさんは、憧れていた出版社に就職するも、小さな発言をきっかけにはじまった上司による理不尽な態度や、辛さを共有できる仲間がいない職場で孤立。自身が気づかないうちに心が病んでいき1年経ったころに、友人の勧めでいった心療内科で「適応障害によるうつ」と診断されます。その後、他部署への移動や2度の休職を経て退職。2度目の休職中に「今度こそ人生が終わったと思った」と感じた辛い体験をします。

現在はTwitterでのイラスト投稿や、『うつ逃げ~うつになったので全力で逃げてみた話~』の連載を通じて同じような境遇な人の心に寄り添うなおにゃんさん。辛いときに「12時間も寝てしまった…また1日を無駄にした」と考えてしまいがちなところを「スゲー!12時間も寝れた〜! いっぱい休めてラッキー」とポジティブな考え方にする、一歩も家を出れないような辛い状況だとしても、それはうつの状態の「あるある」だから気にしないように…と心が楽になるような言葉を伝え続けています。

そんな発信内容に「考え方次第ですね!」「元気が出ます」「見習いたい!」と同じ悩みを抱える人々のコメントが続々。Twitterでは20.6万人ものフォロワーも。そんな彼女の書籍化された連載で、ひとつの案として提案するのが『うつ逃げ』です。なおにゃんさんに、心の不調に気づいた「危険信号」など、当時の状況について聞きました。

同じ部署の人から『逃げていいの?』と言われ…

――自分は普通の状態ではないと、最初に感じた危険信号はどのようなものでしたか。

「朝起きるのがしんどい、体が重い、突然心臓がドキドキする、などの症状は徐々に出ていましたが、『あ、これはおかしいな』とはっきり気づいたのは、会社にいるとき、急な不安感に襲われて、トイレに駆け込み、『どうしよう、どうしよう』と、自分でも気持ちをコントロールできなくなったときです」

――上司の態度や発言で、特に傷ついたことはなんですか。

「特に傷ついたのは、上司に『みんなあんたのことを使い物にならないと言っている』と言われたことです。入社一年目の新人でまだいろんなことがわからなかった自分に対し、そういう言葉を言ってくる上司って本当にひどいと思うし、そもそも『みんな』って誰なんだろうと思います。個人に対して『みんな』を主語にして批判してくるという行為がとても卑怯だなと感じました」

――うつになったときは「頑張れ」といった応援する言葉が辛いと本にあったのですが、ほかにもありましたか?

「うつになって今までいた部署から異動する時に、同じ部署の人から『逃げていいの?』と言われたことが結構しんどかったです。自分としては、今の現状を変えたくて、辛かったけど勇気を出して決めた行為だったのに、なぜそのようなことを言うのだろうとすごく落ち込みました。人によっては『逃げる』行為に映るんだと思って、悲しさと、やり場のない怒りのような気持ちを感じました。

そして、そこから、今回連載が書籍化された本のタイトルでもある『逃げ(る)』ってなんだろうと考えるようになりました」

――反対に、うれしかった言葉、助かった言葉や態度はありますか。

「最後のおまけ漫画でも描いたのですが、うつになったことを友人に伝えた時、『大変だったのね。それじゃあ、美味しいものでも食べましょう』と逆にあっけらかんと返されたことが、意外にも嬉しかったのを覚えています。深刻に心配されるより、カラッとしてもらった方が、自分も落ち込まなくて済むし、まぁ、そういうこともあるよなという気分になれました」

――辛いできごとを漫画という形で表現する上で大切にしたことは。

「恥ずかしさや惨めさも含め、なるべく偽りなく、その時感じたリアルな感情を描こうと思って描きました。また、自分の感情や思考をできるだけ掘り下げて描くことを意識しました」

◇ ◇

なおにゃんさんにかけられた「みんなあんたのことを使い物にならないと言っている」「逃げていいの?」という言葉は、悪意の有無はさておき、自分の「こうあるべき」という固定概念に当てはまらない人間を一方的に責めているようです。それに対して、うつになったことを伝えた友だちが食事に誘ってくれたのは、「どんなあなたでも大丈夫。一緒に楽しく過ごそう」というメッセージのようにも思えますね。もしも、周囲に同じ状況の人がいる場合、参考になる言葉ではないでしょうか。

描きおろしのエピソードも加えた、なおにゃんさんによるコミックエッセイ『うつ逃げ ~うつになったので全力で逃げてみた話~』は4月19日発刊(KADOKAWA・1320円)。うつになるまでの状況、2度目の休職中に「逃げまくった先には何があるんだろう」と自問自答したなおにゃんさんの姿が赤裸々に描かれています。

そんな彼女が、自分が本当にやりたかったことを見つめなおし、絵本作家への道を模索した姿も描かれ、「この漫画が発売されて、SNSでも「今できることをちょっとだけでも踏み出してみようと思えました」「言葉に救われました」と、本当にたくさんの方から温かいお言葉をもらえました。読後の感想の手紙を今すぐ書きたいと言ってくれて送ってくださる方もいて、すごく励みになりました。改めてありがとうございます」と、すでに大きな反響が届いているそうです。

「『休む』こと、『逃げる』こと、いろんな考えや意見があるかと思いますが、今休むことに罪悪感や不安を抱いている人がいたら、自分の体験が一つの選択肢になればありがたいなと思っております」と語ってくれたなおにゃんさん。彼女の体験を知ると、マイナスに聞こえる「逃げる」という言葉の捉え方も変化するかもしれません。

■なおにゃん(@naonyan_naonyan)さんのTwitterアカウント
https://twitter.com/naonyan_naonyan

■書籍「うつ逃げ ~うつになったので全力で逃げてみた話~」(KADOKAWA )
https://www.amazon.co.jp/dp/4046821752

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