「台湾有事の際、日本向け石油の輸出制限を働きかける可能性」 中東で覇権を強める中国…脅かされるエネルギー安全保障

治安 太郎 治安 太郎

日本の関心が米中対立や台湾情勢、ウクライナ戦争などに一辺倒になる中、日本のエネルギー安全保障を脅かす事態が徐々に現実味を帯びている。中東で覇権を強める中国だ。ウクライナ戦争によって日露関係が悪化し、ロシア産石油や天然ガスの問題で日本のエネルギー事情にも影響が及んだが、石油輸入の9割を依存する中東情勢は日本にとって比較にならないほど重要だ。

今年3月、中国が主導的な仲裁役を務める中、サウジアラビアとイランが中国の仲裁で7年ぶりに国交を正常化させると発表した。その後、サウジアラビアとイランは相互に大使館の業務を再開し、4月にはサウジアラビアのファイサル外相とイランのアブドラヒアン外相が北京で会談し、関係改善を進めていく方針を示した。

もともと中国とイランは対米国やエネルギー分野などで緊密な関係を維持し、サウジアラビアはバイデン政権以降、米国との関係を見直している。昨年10月にバイデン大統領がサウジアラビアを訪問したが、人権問題で内政に突っ込みを入れようとするバイデン大統領にムハンマド皇太子は強い不信感を抱き、同訪問では両国の冷めきった関係が浮き彫りとなった。

そして、脱石油経済を模索するサウジアラビアは中国への接近を図っている。中国の習国家主席が去年サウジアラビアを訪問した際、その歓迎ムードはバイデン訪問の時とは180度異なり、両国は経済分野で関係を密にしていくことで一致した。サウジアラビアは3月にも、中国やロシア、インドなどによって2001年に結成された地域的協力枠組み「上海協力機構」にパートナー国として参加する方針を明らかにした。今後イランが上海協力機構の正式な加盟国となるが、上海協力機構はG7とは今日真っ向から対立する政治枠組みとなっている。

一方、イスラエルとパレスチナ問題でも中国は仲裁的指導力を発揮しようとしている。中国の外務大臣は4月、イスラエルパレスチナ双方の外務大臣と個別に電話会談し、中国がサウジアラビアとイランの和平で主導的役割を果たしたように、中国がイスラエル・パレスチナ問題の和平交渉再開で支援する意思があると明らかにした。また、この際イスラエル側は、イランによる核保有を阻止するため中国が積極的な役割を果たしてほしいと伝えたという。

サウジアラビア、イラン、イスラエル、パレスチナというのは中東が抱える諸問題の当事者であり、今日中東では政治力学の大きな変化が生じている。すなわち、これまで中東でプレゼンスを維持してきた米国の影響力が衰退する一方、中国がそこに空いた政治的空白を突くかのように、中国で影響力を拡大しているのである。

中東には、中国のように権威主義的な政権が多く、人権や自由を重視する欧米を正直良く思わない政権も多い。中国は政治的価値より経済面で接近を図るので、そういった中国の方が中東諸国には付き合いやすいという事情もある。

しかし、中国による中東覇権が進めば進むほど、日本のエネルギー安全保障にとっては大きな懸念となる。日本はサウジアラビアやUAE、イランなどに石油の9割を依存しているが、米中対立や台湾有事によって今後日中関係が悪化すれば、中国は日本が購入している価格以上の値段で石油を買い取ったり、中東諸国に日本向け石油の輸出を制限するよう要請したりと、日本のエネルギー安全保障を脅かす行動をエスカレートさせる恐れがある。

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