「高齢になると温度に対する感覚が弱くなり、暑さを感じにくくなる」。この事実を実感し、ゾッとしたと話すのは高齢の両親を持つAさん。気温の上昇を認識してもらうために取った対策は、功を奏しているという。両親とのやりとりなどAさんに詳しい話を聞いたので、高齢者の熱中症対策のひとつとして参考に。
節電もあるけど、暑さを感じていない
気温が急激に上昇したある日、外出中の母から「お父さん1人で留守番してるから」 と連絡があり、実家へ向かったAさん。家に入ると、窓は開けっ放しでエアコンは作動させておらず、室内は40度近くに達していました。朦朧とした表情で突っ立つ父に、「エアコンつけて!気温40度近いよ!」と伝えると、「えっ、本当に?俺…気が付かなかった、感じなかったんだ!」 と驚いた様子。「高齢者は温度に対する感覚が弱くなるため、室内でも熱中症にかかりやすい」という注意喚起を思い出しました。
「高齢者がエアコンつけないのは、電気代がもったいないのが理由だと思われがちですが、暑さを感じていないのも一因なんですよね。実際に気温が上がったことを感じていない父の様子を目の当たりにして、納得したし、愕然としました」。
室温を適温にし、実家を後にしたAさんですが、父と交わした会話が気になり、実家へ電話。母と弟から、以前、父が熱中症にかかり救急車で運ばれ点滴をしたこと、エアコンを付けずにジャンパーを着た状態で暑い部屋で過ごしていたことを聞きました。水を一度にたくさん飲むのは難しく、思ったように水分を補給できていないことや、母が室温に注意を払っているものの、エアコンを父がいつのまにか消してしまうことも、会話の中で明らかに。
父の「部屋に温度計はあるけど、字が小さくて読めん!」の言葉から、大きな字で表示されるデジタル温湿度計をすぐ購入、テレビのそばに置くことにしました。設置後は、熱中症アラートが出るので、両親ともに注意するようになったとのこと。「室温をチェックできるから助かると父から連絡がありました」とAさん。
最近の温度計では、温度と湿度を計測して熱中症の危険性を段階的に表示してくれるものや、温度湿度を一定の数字に指定すればアラームで警告してくれるものがあります。高齢の親を持つ同世代とも、「自分を信じるな数字を信じろと言い聞かせた」「うちもデジタル温度計つけて ようやくクーラーつけるようになった」と言葉を交わしたそうで、「高齢の親がいる人は“熱中症に気をつけて”と呼びかけることに加え、目に見える場所に温度計をつけてあげて欲しい」と訴えます。
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厚生労働省の熱中症予防のための情報・資料サイトによると、熱中症患者のおよそ半数は65歳以上。屋内での死亡者のうち約9割はエアコンを使用していなかった(※東京都23区における熱中症死亡者の状況 令和3年夏)というデータもあります。また、消防庁の発表では、今年5月の熱中症による救急搬送人数は3647人(前年同月比1.37倍)。気温湿度ともに上昇する梅雨や暑さが増す盛夏と、今後ますます熱中症罹患の可能性は高まります。
高齢の親と「気温が高くなってるから、エアコンつけて」「暑くないから大丈夫」「電気代がもったいない。暑いなと感じたらエアコンを使うから」「感じてからでは遅い!」「水分はこまめに摂って」「乾いてないのに飲みたくない。トイレが近くなる」「脱水症状起こしたら、大変だよ!」といったやりとりを繰り返し、うんざりすることはよくある話です。
感覚を頼りとする会話ではなく、数字(温度)を見て認識してもらうというのは有効な手立てのひとつではないでしょうか。
■高齢者のための熱中症対策リーフレット(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/nettyuu_taisaku/pdf/heatillness_leaflet_senior_2022.pdf
■熱中症予防情報サイト(環境省) https://www.wbgt.env.go.jp