ドラマ「あなたがしてくれなくても」 永山瑛太着用の白シャツ、山間部で生まれた逸品だった 東京から移住したデザイナーに聞いた

伊藤 大介 伊藤 大介

セックスレスをテーマにした奈緒さん(28)主演のドラマ「あなたがしてくれなくても」(フジテレビ系、木曜午後10時)で気になるテロップを見つけた。「衣装協力の『hatsutoki』って、兵庫県西脇市の播州織ブランド、ハツトキのこと?」。10年前に神戸新聞西脇支局で繊維産地を取材していた記者はピンと来た。

2012年に東京から西脇市へ移住し、立ち上がったばかりの播州織ブランド、ハツトキのデザイナーに就いた村田裕樹さん(34)の顔を思い出した。村田さんに電話すると、「ドラマに衣装提供してますよ。よく気がつきましたね」と返事が返ってきた。奈緒さんの夫役で、喫茶店の店長を務める永山瑛太さん(40)が喫茶店で働く際に身に付ける白シャツは、村田さんがデザインしたものだという。瑛太さんはほぼすべての放送回で白シャツを着用している。

国内繊維産業は苦境が続き、先染め綿織物を生産してきた北播磨の播州織産地も、ピークだった1980年代から生産量は10分の1に落ち込んだ。縮む繊維産地に飛び込み、高品質で持続可能なブランドを目指してきた村田さんに、シャツに込めた思いを聞いた。

プロが求める機能性とデザイン性を融合

永山瑛太さんが劇中の喫茶店で着ている白シャツは、ハツトキが手がけるkitchenシリーズのシャツジャケット。洗いざらしの表情が柔らかいオフホワイトのシャツ生地には、汚れが付きにくい加工が施され、袖がまくりやすいよう袖口にさりげなくゴムを入れるなど、飲食店でプロが求める機能性とデザイン性を融合させました。

kitchenシリーズのテーマは「料理ともてなし」。個人経営の小さな店で、厨房(ちゅうぼう)で調理し、そのままサーブもできる服を作りました。
生地作りから縫製まで日本で仕上げたシャツジャケットは2万4200円と高価ですが、東京で人気のビストロや中華料理店、美容室、花屋などで採用されてきました。

永山瑛太さんは店内でコーヒー豆をより分けたり、コーヒーを入れ、客の前に出すところまでシャツを着ながらこなしています。スタイリストから「ドラマで使わせてほしい」とメールを受け取った村田さんは、「服のコンセプトをよく分かってくれて、(喫茶店の店長の服として)採用してくれたんだと思う」と感謝します。

職人のこだわりに惹かれ、東京から移住

先染め綿織物の地場産業「播州織」は、兵庫県の山間部、西脇市を中心に作られています。人口4万人の町の主要産業で、かつてはアパレル各社に大量のシャツ生地を卸していましたが、人件費が安いアジアに仕事を奪われるようになり、大量生産を誇ったかつての勢いはありません。

東京出身の村田裕樹さんは青山学院大学時代に服作りに魅了され、都内の服飾専門学校で学んだ。

都心であっという間に使い捨てられる服をデザインすることに関心が持てず、生地の産地を訪ねて回る中で播州織と出合った。職人たちが工夫を凝らしてものづくりに取り組む姿に惹かれ、トランク一つで西脇市に移住し、播州織商社「島田製織」に就職した。

播州織は生地の卸しが中心で、当時ブランドを立ち上げ、服を作る企業はほとんどなかった。当然、デザイナーもほとんどおらず、「東京から若い子が来た」「なんでやろ?」と噂になっていたのを記者は覚えている。村田さんは「いいものづくりをするなら当然の選択」と意に介さず、「東京から来た若いニイちゃん」はあっという間に繊維産地に馴染んでいった。

古民家で有機農法、持続可能な服作りを

ヨウジヤマモトのアクセサリーブランド「discord」とのコラボレーションやフジテレビのドラマでの採用など、田舎の繊維産地で立ち上げたブランド「hatsutoki(ハツトキ)」は着実に認められつつある。

現在は季節ごとの展示会を開かず、自社のECサイトでの販売に力を入れている。

村田さんは「展示会の締め切りに追われて作るのではなく、自分たちのペースで納得のいくものづくりをしたい」と説明する。自社サイトではブランドの生産背景や、服に込めた思いについて語っている。繊維産地で出会った妻と息子と古民家で暮らし、有機農法による米作りや綿花栽培をしながら、持続可能な服作りを考えている村田さん。人口4万人の繊維産地で産まれたシャツが、全国放送のドラマで毎回登場するのを見ながら、どこか誇らしい気持ちになった。

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