長澤まさみが息子へ強く依存する母親を演じ大きな話題となった映画『MOTHER マザー』で、息子役を演じスクリーンデビューを飾った奥平大兼。数々の映画賞で新人賞を受賞するなど華やかなスタートを切ったが、その後も質の高い映画、ドラマへの出演を続け、最新作映画『君は放課後インソムニア』では、初主演を果たした。今最も注目される若手俳優の奥平に話を聞いた。
映画初主演も「プレッシャーに感じることはありません」
映画『MOTHER マザー』で奥平は、無防備に母親を見つめる目が強い印象を残した。芝居経験が全くない奥平に、数々の話題作を世に送り出している大森立嗣監督は、“感じるまま”の表現を求めた。何にも覆われていないヒリヒリするような母親への目線など、スクリーンに映し出された奥平は、触れただけで壊れてしまいそうなほど繊細だった。
その後、是枝裕和監督が率いる映像制作者集団「分福」に所属する川和田恵真監督が手掛けた、在日クルド人問題を描いた映画『マイスモールランド』で、嵐莉菜演じる高校生のサーリャのアルバイト先で出会う高校生を演じた。重厚なテーマのなか、劇中に爽やかな風を吹かせた。
さらに、『MOTHER マザー』と同じスターサンズが手掛けた映画『ヴィレッジ』では、俊英・藤井道人監督のもと、ごみ処理場施設で働く青年を好演。全身タトゥーに金髪というこれまでのイメージを覆すようなビジュアルで、作品のトーンをぶっ壊すようなキャラクターを演じきった。
注目の映像作家に次々起用され、幅広いキャラクターを演じてきた奥平が『君は放課後インソムニア』で担うのが、不眠症に陥りながらも、森七菜演じる同じ悩みを抱える高校生の伊咲(いさき)と使用されていない天体観測室で出会ったことから、淡い恋心を抱く男子高校生・丸太(がんた)だ。
「これまで引きこもりだったり、お父さんがいなかったり、どちらかというとちょっと癖のある役が多かったのでこんなにキラキラした作品で、自分でもどんな自分が見られるんだろうという思いがありました」
これまでにないキャラクターを演じることへの期待が大きかったという奥平に、メガホンをとった池田千尋監督は、細かく演出するよりも「とにかく自由にやってみて」という方法を選んだ。このスタイルは、デビューとなった映画『MOTHER マザー』でも大森監督から言われていたことであり、奥平は「当時の経験が活きたと思います」と話す。
今作は主演だけに責任の重さはこれまでとは違う。それでも「主演だからと言って、それがプレッシャーに感じることはありません」ときっぱり。どんな役柄でも、作品に対する挑み方は変わらないという。そこには自分の役割を全うすることに集中すれば、おのずとすべき表現は決まってくるという思いがあるようだ。「やる前よりも、終わってから大丈夫だったかな……と心配になる方が多いです」と笑う。
良くないところを指摘してもえらえると嬉しい
デビューから3年が経過。奥平の出演作品を振り返ると、非常に良作に恵まれている印象だ。「もちろんドラマも大好きですが、映画の現場に入ると、ホームに帰ってきた感じがします。すごく濃密な時間に感じられて、ホッとするというか、落ち着くんです」と奥平自身も映画が特別な場であることを明かす。
大森監督や、本作の池田監督のように、俳優に委ねる現場もあれば、しっかりと画をイメージし、細かく演出をつけてくれる監督もいる。奥平は「どちらも楽しい。基本的に映画は監督のものだと思っているので、『こうやってほしい』というオーダーにきっちり答えられるように演じることは面白いです。一方で、任せてくださる監督も『よし、やってやろう』という部分で楽しい」と柔軟性を見せる。
そんななか、奥平は「ダメ出しではないのですが、良くないところを指摘していただけると、ものすごくうれしいんです」と声を弾ませる。『ヴィレッジ』の現場では、藤井監督から「こういうことが出来たらいい」とアドバイスをもらった。課題を指摘され、芝居に臨む意識がさらに変わったという奥平。その後、別の現場で藤井監督に会った際「大兼、芝居うまくなったね」と声を掛けられ「めちゃくちゃうれしかった」と破顔する。
真摯に役に向き合う姿は大人びているが、藤井監督のエピソードを話す奥平は20歳手前の等身大の若者だ。「あんまり早く大人になりたくないんですよね」。続けて「甘い考えなのですが、やっぱり下でいるって居心地がいいじゃないですか。もう少し甘えていたいかも」と照れくさそうに語った。
奥平の初々しさがたくさん詰まった『君は放課後インソムニア』。劇中には、ストレートな告白シーンも登場する。奥平は「ハズいっすね」と今どきの若者のような笑顔を見せると「いまの高校生のリアルがたくさん描かれています。若い子が何かに向かって頑張っている姿をぜひ見てください」と作品をアピールしていた。