お酒を飲める人って社内外のビジネスコミュニケーションに長けていて、なんとなく「稼ぐ」イメージがないですか? その「イメージ」をデータで裏づけることができるのかという東京大学大学院のユニークな研究が注目されています。結論から述べると(下戸の皆さんよく聞いてください)アルコール耐性は所得向上に寄与するわけではないことが判明したそうです。
東京大学大学院公共政策学連携研究部の川口大司教授らによる研究グループが、日本、台湾、韓国の男性成人のデータを使い、お酒を飲めるかどうかが所得や労働時間に与える影響を調査。分析の結果、アルコール耐性のある人々は、ない人々に比べて、高頻度かつ多量の飲酒をしていることが明らかになった一方で、必ずしも高い所得を得ているわけではないことが明らかになったといいます。
日本人を含む東アジア人の中には、体質的にアルコール耐性が低い人たちがいます。研究グループでは、日本、台湾、韓国でそれぞれ約2000人、1000人、500人の勤労男性を対象に独自調査を実施。アルコールに対する遺伝的耐性を測定するアルコールパッチテストにより、回答者のおよそ50〜60%が耐性が「ある」タイプ、残り40〜50%が「ない」タイプであるという結果が出ました。
データ分析では、アルコール耐性がある男性は、ない男性よりも飲酒頻度と1回あたりの飲酒量が多いことが判明。この結果は「飲める人が飲む」というこれまでの研究でも報告されてきた関係を再確認するものです。
次に、アルコール耐性の有無による収入と労働時間を比較しましたが、統計的に有意な差はありませんでした。研究グループは「統計的に有意ではないことにとどまらず、差の大きさも無視できるものでした」としており、全体として、アルコール耐性が労働市場の結果に及ぼす影響がないことがわかったそうです。
医学分野の研究でも、適量の飲酒は健康状態を向上させるという考え方は否定されるようになりつつあります。ただし、もし飲酒がビジネスコミュニケーションを円滑にし、所得を向上させる効果があるならば、適量の飲酒は経済的な観点からは望ましいということになり得ますが、今回の研究結果はそのような効果の存在を否定するものになりました。
川口教授らの研究グループは「お酒は健康状態の改善や所得の向上を目的に飲むのではなく、個人が自分の好みに従って楽しむべきものと言えそうです」としています。
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【発表者】
東京大学 大学院公共政策学連携研究部/大学院経済学研究科 川口 大司(教授)
ソウル国立大学 経済学部 李 政珉(教授)
国立台湾大学 経済学部 林 明仁(教授)
一橋大学 大学院経済学研究科 横山 泉(教授)
【論文情報】
〈雑誌〉Health Economics
〈題名〉Is Asian Flushing Syndrome a Disadvantage in the Labor Market?
〈著者〉Daiji Kawaguchi, Jungmin Lee, Ming-Jen Lin, and Izumi Yokoyama
〈DOI〉10.1002/hec.4675