ラーメン屋のゴミ袋を開けると…中にはゴキブリホイホイに張り付いた子猫たち 唯一生き残った愛猫・うずらちゃん

古川 諭香 古川 諭香

「野良生活は過酷で、野良として生まれた子猫の多くは命を落としてしまいます。SNSで多くの人を魅了する「元保護猫」さんたちは極めて幸運な子。救われなかった命が、その何倍もあることも知ってほしいです」

そう語るイラストレーターのきびの あやとらさん宅では九死に一生を得た、愛猫うずらちゃんが暮らしている。

うずらちゃんは、ラーメン屋が出したゴミ袋に捨てられていた子。救出時、体はあまりにも悲惨な状態だった。

ラーメン屋が遺棄したゴミ袋の中に6匹の子猫が…

ボランティアで保護活動をしていたきびのさんは当時、ゴミ捨て場で出会ったタロくんと生活中。

ある日、保護猫ボランティアをしている知人アビさん(仮名)のSNSを見て、胸が締め付けられた。

ある時、愛犬の散歩をしていたアビさんの旦那さんはラーメン屋の近くに集まっている、中高生くらいの男子たちが気になった。どうやら男子学生たちはゴミ袋から猫の鳴き声が聞こえ、気になっていたよう。

そこで、アビさんの旦那さんが袋を開けると、中には業務用のゴキブリホイホイに貼りついた子猫が遺棄されていた。

その場での救出が難しかったため、旦那さんはゴミ袋を持ち帰り、アビさんと共に子猫を救うことに。ゴミ箱の中には6匹もの子猫がおり、3匹はすでに息絶えていた。

アビさんは生き残ったゴキブリまみれの猫たちを洗って温め、ミルクをあげ、生き延びさせようと奮闘。しかし、救出後、3匹のうちの1匹も逝去。生き残った2匹には、なんとしても幸せになってほしくて、アビさんは保護の経緯と写真をSNSに投稿し、里親を募った。

その投稿を見たきびのさんは、猫の命をこれほどまでに軽視している人間がいることにゾっとしたそう。

「人間の都合で捨てられ、過酷な環境で生きる猫たちを私もたくさん見てきましたが、この件は人間の勝手という次元を超え、あまりに命に無関心だと思いました」

生き残った2匹とも自宅へ迎え入れたかったが、タロくんの気持ちを考慮し、上手くいきやすいと言われている異性の猫を迎えようと決意し、アビさんに連絡。2匹の性別はまだ判明していなかったため、分かり次第、知らせてもらえることになった。

ところが、その後、2匹のうち1匹が逝去。残った子の性別は、偶然にも女の子だった。運命的なものを感じたきびのさんは、その子猫をお迎え。

毛の模様が鳥のうずらにそっくりだったことから、「うずら」という名前を贈った。

野良猫の過酷さを痛感した愛猫の“豹変スイッチ”

お迎え時、うずらちゃんは生後3カ月ほど。大きなペットサークルの中で、自分と同じくらいのぬいぐるみと寄り添って眠る姿はかわいかったが、兄妹を亡くした痛みが感じられて切なかった。

「1週間ほどは、リビングの一角に作ったサークルの中で過ごしてもらいました。かわいい盛りでしたので構いたくて仕方なかったですが、しばらくは先住猫を優先するようにしました」

うずらちゃんはお迎え当初から、落ち着きのあるお利口さんだったが食べ物が絡むと、豹変。ある日、きびのさんはパックごと引き裂いて餃子を食べようとする姿を目撃し、驚愕。

同時に、生まれた瞬間から過酷な生活を強いられてきた、うずらちゃんの半生に思いを馳せた。

「食べ物を前にすると豹変し、取り上げようとすると、ものすごい力で噛み付いてきて私の手が血塗れになることが多々ありました」

ただ、一緒に暮らすうちに、毎日ご飯が貰えること学んで安心したのか、2~3カ月経つと、食べ物に対する執着心は落ち着いていき、甘えん坊な性格に。

「話しかけると返事をしてくれ、ご飯前には必ず“いただきます”を言えるお利口さんです」

好きなことは、フェルトボールのようなふわふわしたもので遊ぶこと。投げると、ワンちゃんのように咥えて持ってきては、何度も「投げて」とおねだりをする。

「基本的には何事にも動じず、常に悠々としているのですが、少しのことで驚いて跳躍する時があります。その際は垂直に飛び上がる。とても、かわいいです」

なお、先住猫タロくんとは、ほどよい距離感。

たまに喧嘩をしたり、気まぐれにグルーミングしあったりと、にゃんとも猫らしい絆を育んでいる。

命を救ってくれた人への感謝を込めて描いた「うずら物語」

「のんびりとキャットタワーでくつろいでいる時、ポンポンを咥えて走ってきた時、お腹を吸わせてもらっていたら私の鼻を舐めてくれた時など、うーちゃんがいてよかったと思うたび、アビさんに感謝しています」

そう語る一方で、きびのさんは犠牲になった兄弟猫やゴミとして命を遺棄した人のことを考えると、なんとも言えない気持ちになる。

以前、娘さんから「タロやうずらの本当のママはどこにいるの?」と尋ねられた時には、アビさんから聞いた、保護時に母猫らしき猫がラーメン屋の周りをうろうろして鳴き続けていたという話を思い出し、涙が頬を伝ったそう。

「母猫は子猫たちを探して必死だったのでしょう。人間に置き換えたら、こんな残酷な話はありませんが、動物には、どんな酷い仕打ちも平気で行えてしまう人が一定数いて、絶望的な気持ちになります」

だが、アビさんのように小さな命のために汚物に躊躇なく手を突っ込める人も、世の中には、たしかにいる。そこで、命を捨てた人間への非難ではなく、手を差し伸べてくれた人への感謝の気持ちを込め、きびのさんは、うずらちゃんの生い立ちを漫画で発信した。

「今こうしている間にも不幸な境遇の猫は増え続けているけれど、その猫たちを救うために努力してくださる方がいることを日々忘れないようにし、娘にもそのことを教え続けていこうと思っています」

命に大小はないと言いながらも、無意識に区別し、取捨選択してしまうのが人間だ。そんな生き物であるからこそ、私たち人間はもっと自分以外の命や別の生き物の生命に敬意と感謝を持つ必要がある。

ゴミ同然に扱われた兄妹猫の中で唯一、命を紡ぐことができたうずらちゃん。その命から学ばされることは多くある。

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