4月中旬、京都市動物園(左京区)の調理場で、動物たちの食事を飼育員が手際よく準備していた。ニンジンのへた、キャベツの外葉、欠けた豆…。いずれも園外から寄付された「餌」だ。
園が餌を募り始めたのは2020年秋。市の財政難に伴い、園運営費の見直しを迫られたことがきっかけだった。ゾウの成長や動物福祉への配慮で飼料代は年々増加していた。
「このままだと予算内に収まらない危機感があった」と和田晴太郎副園長。業者や農家などに呼びかけると、剪定(せんてい)された枝葉や規格外の野菜を含め、数多く寄せられるようになった。
「熟れたイチゴや大きくなりすぎた小松菜など、持って帰りたいくらいきれいなものも多い」。そう笑うのはサル舎担当の飼育員、櫻井ひかりさん(25)。栄養面などを踏まえて食事内容を決め、「0円メニュー」の日もあるほど寄付食材を幅広く活用している。
枝葉の量増え「便の質良くなった」
旬の素材が増え、食が多様化することは動物にとっても良い刺激だ。以前は櫻井さん自ら園内の木を切ってマンドリルなどに少し与えていたが、「寄付で枝葉の樹種や量がぐっと増えた。食物繊維が豊富で便の質も良くなった」。
枝葉は食べるのに時間がかかり、割いたり遊んだりと動物本来の行動を促す。果物をはじめ、体調不良時に薬と一緒に与える嗜好(しこう)性の高い餌の選択肢も広がったという。
寄付した企業・団体数は21年度は37、22年度は39で、継続的に行う団体も多い。その結果、飼料費は19年度の約6300万円から、22年度は価格の高騰にもかかわらず約5300万円に。縮減効果は1200万円に上る。
メリットは寄付者側にも。給食製造会社「ファーストフーズ」(本社・南区)は週2回、調理時に出る野菜の切れ端など30~40kgを届けている。
「SDGsへの関心高めるきっかけに」
川上美紀取締役は「資源の有効活用や廃棄物の削減につながり、社員がSDGs(持続可能な開発目標)への関心を高めるきっかけにもなった。地域社会への貢献として今後も続けたい」とうなずく。
豆腐製造業の服部食品(左京区)は、おから8〜12kgほどを配達途中に毎日持参している。良質なタンパク源としてゾウやカバが食べているほか、ケープハイラックスの大好物となっている。
西島寛取締役は「動物園は距離が近いし、京都に住んでいる者として特別な思い出もある。おからの処分はもったいないので、少しでも役に立てたらうれしいし、社員の喜びになっている」と語る。
農家などを除く一般市民からの寄付は、餌の量や安全面から原則として断っているが、お金による「餌代サポーター制度」も好調で、21年度は約2300万円に達した。個人からの多くの要望を踏まえ、同年度にはクレジットカードで千円から手軽に寄付できるよう変更した。
Amazon「ほしい物リスト」も導入
さらに通販大手アマゾンジャパンの「ほしい物リスト」を通して、園が希望する商品を支援者が購入して寄付が可能に。これまで、ゴリラが遊べるロープネットや、レッサーパンダの給餌器、ゾウ用の大型冷風機などが設置された。本年度にはゴリラ舎の環境充実へ、クラウドファンディングも予定している。
和田副園長は「まちなかにある動物園で市民との距離が近く、応援してあげようという人が多くて大変ありがたい」と話す。園のサイトでは感謝を込め、寄付された物を動物が楽しむ様子を積極的に紹介している。
今後、寄付の取り組みを教育現場で伝えたり、ゾウのふんでつくった堆肥を生産者に提供したりと、循環の輪をさらに広げたい考えだ。
一方、餌の仕分けや運搬といった寄付者の負担とともに、園側は受け入れの調整に苦労も。和田副園長は「長く続けていくため、互いに無理しすぎないことが大切」と語る。
もともと園は120年前、市民らの寄付金を基に開設された歴史がある。近年の大規模リニューアル時も多くの支援があった。「市民の手で誕生し、支えられてきた」。坂本英房園長の言葉に実感がこもる。
現在、動物福祉や希少種の保全、SDGsなど動物園に求められる役割は多岐にわたる。「市民や関係団体とさらに連携を深めていきたい」と坂本園長。動物や人、そして環境面で、魅力ある園の姿を追い続ける。