モルモットの消化器疾患→抱っこ禁止で大幅改善 かつて「見せ物小屋」だった動物園 心身の健康重視、飼育や展示はどう変わる

京都新聞社 京都新聞社

 「テンジクネズミ(モルモット)が気に入るおうちを作ってみよう。怖がりだから触らないでね」。飼育員は親子連れに笑顔で呼びかけた。

 4月下旬、京都市動物園の一角にある「おとぎの国」。小動物との「ふれあい」ができる施設だが、昨秋に内容が大きく変わった。

 新型コロナウイルス禍前まではモルモットを抱っこでき、休日には行列ができるほどだった。しかし現在は、家に見立てた仕切りの中に子どもが自由にパイプのトンネルや布などを置き、モルモットの行動を観察するのみだ。

 なぜか。コロナ禍前、消化器系の疾患で弱るモルモットが相次いだ。ところが抱っこを中止すると体調が大きく改善。人との接触が動物のストレスになっていたことが判明した。

 同園の生き物・学び・研究センターの山梨裕美主席研究員は「動物の生態を学んだり、情緒を養ったりしてもらう。触って楽しむのが目的ではない」と話す。

人気回復へ始めた「動物サーカス」

 開園120年を迎えた今、動物の飼育や展示方法という、園の本質そのものに転機が訪れている。

 「動物園の原点は見せ物小屋」。同園の100年記念誌に明記されている通り、1934(昭和9)年、園が人気回復のために始めたのは「動物サーカス」だった。チンパンジーやツキノワグマの玉乗り、アジアゾウの曲芸…。効果はてきめんで来園者数は急増したという。

 戦後も園内に「野外演芸場」を設け、アシカの平均台渡りやサルの竹馬乗りなどのショーを次々と増やした。ライオンとトラの交配やライオンとクマの同居も試みられた。

 しかし、動物愛護が重視されるようになり、56年にショーは廃止、67年には異なる動物の交配もやめた。その後、運営の重点は社会教育や種の保存に移った。

 今、園が最も重視するのが「動物福祉」の向上だ。「動物が心身ともに健康な生活が送れているか」を基準にする考え方で、世界動物園水族館協会が2015年に打ち出した「動物福祉戦略」を機に、全国的に広まった。

 市動物園は20年に独自指針を策定。20近い項目に従って動物の行動観察を行い、必要に応じて飼育方法を変更している。

 例えば、動物が同じところを行き来する「常同行動」は、典型的なストレス行動だが、ゾウが部屋に戻る夜間にその行動が見られた。これを受けて昨夏からは、気温が高い夜に部屋の扉を開け、自由にグラウンドに出られるようにした。

 ナマケモノを夏の間、クジャク舎に入れるのも改善策の一つ。普段過ごす熱帯館では運動量と日光浴が足りないため、比較的おりの大きなクジャク舎で同居させ、上下ですみ分けさせている。「公営動物園の中でも特に敷地面積が狭いため、限られたスペースを最大限活用している」と山梨研究員。

飼育動物の取捨選択も

 飼育動物の取捨選択も動物福祉の一環だ。ライオンは100年以上前から飼育し人気だったが、20年2月に雄の「ナイル」が老衰で死んだ後、十分なスペースが確保できないとして飼育をやめた。

 夏は酷暑、冬は極寒の野外サル島で暮らしてきたアカゲザルも、サル島を閉鎖して繁殖を中止。将来的にはゼロにする方針だ。

 飼育管理を担当する和田晴太郎副園長は「かわいさや人気といった人間の都合ではなく、飼育環境や継続性など動物目線で判断している」とする。

 人間と動物の共生。新たなステージに入った同園は、持続可能なあり方を目指し、模索を続けている。

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