医師が説明しているのにスマホを凝視→心配になり患者に聞くと… その理由に納得「伝え漏れがないので安心」「今までは筆談だった」

谷町 邦子 谷町 邦子

「難聴がある患者様が携帯を見ながら私の説明を聞いていた。説明が聞こえているか気になりたずねると…」と、地方病院の整形外科に勤務するtakaMD(@takaMD)さんがTwitterで投稿した「今日のびっくり」が話題になりました。

その患者が携帯の画面を指さすので見てみると「なんと、私の声が即座に漢字交じりの文字に変換されていてそれを見ていたとのこと。その文字は保存されており帰宅して家族に見せて報告するという」。初めて見るアプリやその機能に驚いたそうです。

投稿には、病院でアプリを使用した経験のある難聴当事者から、「コロナ禍の影響でお医者様がマスクをするようになって読唇ができなくなったので、苦肉の策でスマホで音声認識アプリを使っております。本当は口を見せて話してくれたら嬉しいのですが」「子供のことや病院等で話したことを家に帰って家族に伝える場合、文字化アプリがあると伝え漏れがないので安心」「『音声文字変換』というアプリを使っています。今まで筆談だったけれど、先生が喋った内容をすぐ文字に変換してくれるの助かります」など、使用に至った経緯や、アプリの即時性・正確性などを評価するコメントが寄せられていました。

また、医師からは「うちの患者さんで、iPadに文字起こしのアプリを入れて、診察を受ける方がおられます。近くの大学の留学生はほぼスマホの翻訳アプリを使ってくれてます」「以前は必ずご家族が同伴され、ご家族にお話しながら、同時にレポート用紙に質問を書くなどしてコミュニケーションを取っていたのですが、いつのころからかスマホアプリに。外来も今はお一人で来ています」などのエピソードが寄せられました。一方で、無断で録音されることについての不安や、それも仕方ないという声もありました。

takaMDさんに、音声を認識し文字化するアプリの使用について、医師としての考えをお伺いしました。また、開発した会社のひとつである「Shamrock Records(シャムロック・レコード)」にアプリの誕生秘話などを聞きました。

「一部の病院では録音を禁じているところもあるが…」

音声認識アプリが出現する以前、難聴者とはレントゲンディスプレイにワードパッドで手入力して筆談、あるいは付き添いの手話通訳者を介してコミュニケーションをとっていたと言うtakaMDさん。アプリの使用について、「善意の利用については賛成」という立場で次のように語ってくれました。

「便利なアプリで、患者様が助かるならそれに越した事は無い。そのような患者様の助けになるアプリが広まるのは良いこと。一部の病院では録音を禁じているところもあるようですが、もうそんなことを言っていられるような時代では無くて患者様の利便性が優先される時代となっていることから、禁止してる病院は新しい対応を迫られるであろうと思います。

残念ながら、一部の患者様が不安を感じる医療者がいてそれに対抗するために録音が必要だ、とのツイートもありましたが、その逆があるのも事実。そのため、これまで録音される場合は双方ですることが推奨されていました。今後は新しい対応が必要と考えます。録音されて医療者側が困る例はほんの一部ですが、問題が起こる時は非常に大きくなる懸念もあり、実は難しい問題なのだと思います。医師やその他医療従事者と患者様間の信頼関係がこれまで以上に重要な時代となり、このようなアプリが信頼関係構築の助けになることを祈ります」

聴覚・視覚に障害がある人に”伝えられなかった”経験から開発 

さて、takaMDさんの投稿へのリプライには、数種類の便利なアプリの名前が挙げられ、その中のひとつが「UDトーク」。音声を認識し文字で表現するだけでなく、合成した音声で文字を読み上げたり、音声認識により文字化した文章を翻訳機能で英語をはじめとする他の言語に翻訳することも可能。1対1のコミュニケーションに加えて、多人数での会話、会議にも対応し、講演などに字幕をつけることもできます。

開発したのはコンピューターソフトウェアやスマートフォン向けアプリの開発などを展開する「Shamrock Records」の代表、青木秀仁さん。”話し手が使う”ことを目的とし、コミュニケーションの「UD=ユニバーサルデザイン」を支援するためのアプリ開発についてたずねました。

「UDトーク」のサービスが開始されたのは2013年。きっかけとなったのは、聴覚に障害のある人との出会い。その際、「スマートフォンと音声認識を使ってコミュニケーションアプリができないか」と提案されますが、相手側の話を把握できたものの、自分の言葉を相手側にうまく伝えきることはできませんでした。

その人から招待されて、ユニバーサルデザインを考える団体に参加。デザイナーや開発者に加え、聴覚や視覚に障害のある人を前に用意してきたプレゼンテーションを行ったにもかかわらず、そこでも相手には伝わりきらず。それらの経験から、青木さんは自分が視覚障害、聴覚障害の人たちとコミュニケーションをとるためにアプリを開発したのです。

運用を開始したところ、用途はコミュニケーションにとどまらず、議事録作成や記者会見で録音・文字起こしに使用する記者も。また、音声から文字を入力する機能は、手に障害がありキーボードの操作が難しい人も活用しているとの報告も上がっていると言います。

その結果、「UDトーク」は個人に加え、学校(特別支援学校だけでなく一般の中学校、高校、大学)や教育委員会など教育機関、市役所や県庁、町役場、東京消防庁など公官庁、企業などが利用。有料の法人向けプランは1000以上が導入しています。

健常者が聴覚などに障害がある人に何か伝えたい時に使うことが想定されているので、社員1000人の会社に1人聴覚障害者の方がいたらユーザーは999人となるため、デバイスごとの契約とせず、拠点内の使用台数は無制限にしているのも特徴です(法人が無料版を使うことも可能)。

ダウンロード数は10年かけて現在100万超となり、注目したいのはその発話数。2020年の5月は1000万発話でしたが、今年3月で1カ月に4200万発話を突破。飛躍的な伸びについては、オンラインミーティングやオンライン授業での利用、2022年秋期ドラマ『silent』や2023年冬期ドラマ『星降る夜に』に「UDトーク」が登場したこと。また、ツイッター、メッセンジャーなど様々なアプリで使える「UDトークキーボード」のサービスが始まったことが影響しているのではと、青木さんは推測します。

青木さんは「音声認識は便利な技術で『UDトーク』は色々使えるアプリです。気軽に利用できるよう使い方をYouTubeで公開しているので見て使ってみてください」と、普段の生活での活用がますます広がることを目指しています。

◇ ◇

聴覚障害のある人とのコミュニケーションをサポートするアプリは複数あるので、特別なものととらえずに、普段から使って慣れておくと、ニーズがある人と話す機会が訪れた時、自分の思いを充分に伝えられそうですね。

■「UDトーク」公式サイト https://udtalk.jp/
■Shamrock Records株式会社 https://shamrock-records.jp
■Shamrock Records株式会社のYouTubeチャンネル(『「UDトーク』の使い方などを発信) https://www.youtube.com/@shamrockrecords

■takaMD(@takaMD)さんのTwitterアカウント
https://twitter.com/takaMD

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