取引先から「マネして描いてよ」と平気で言われ… 模倣・無断使用なくならない理由にデザイナーが警鐘「犯罪だと言っても納得しない」

宮前 晶子 宮前 晶子

「結構、お客様から“〇〇のイラストを使いたい”とか言われること多いんですよね。ご本人に依頼するにはこのくらいの費用がかかりますよと伝えると“じゃあ真似して描いてよ”って。犯罪ですよと伝えてもなかなか納得されない」

絵画や映像作品、楽曲、広告デザインなど創作物において、たびたび騒動になる盗用や無断使用。今春に「若年層の性暴力被害予防月間」(内閣府)ポスターやIRのPR動画の問題発覚後、Twitterで盗用に対する苦言を呈したのはグラフィックデザイナーのしぐさん(@sigmabi)。

ここ数年でも、銭湯絵やオリンピックロゴ、音楽ユニットのキービジュアルイラストなどが既存の作品との類似を指摘され、撤去や使用中止に。騒動のたびに、クローズアップされるにも関わらず、なくならない模倣や盗用問題。

なぜ、このようなことが繰り返されるのでしょうか? 広告業界で20年以上キャリアを持つグラフィックデザイナーに、この問題に対する思いを聞きました。

制作現場ではよくあること?

自身の経験談として、デザイナーに模倣・盗用を強要するようなオファーだけでなく、「“うちの社員で絵が得意なのがいるから、似せて描かせる”という方もいらっしゃった。描かされる社員さんも(多分無償だろうし)悲劇だし、依頼主様側が著作権に疎く、なぜダメなのか知らないのも悲劇。なのに、外国のパクリの件でのニュースでは嫌悪感を出すのにという矛盾もあります。著作物に対しての権利関係、もっともっと広まって制作に携わるみんながハッピーな気持ちになれるような環境が都心だけでなく全体に広まれば、もっと良いものもたくさん生まれるのになぁと。(中略)認識を広めたいね、零細ではこんなことあるからね、って話」と述べています。

この業界で長く働き、大手広告代理店との仕事も経験してきたゆえ、第三者ながらも制作現場の環境を想像できるとしぐさん。「同業者の中には、業務に関わる法律含めた周辺知識に乏しい人も少なからずいます。そもそもの労働環境に問題もあるとも思います」。

クライアントや上司にはモノ申しにくい!?

「今回の2件については制作者を悪く言う意見もありましたが、実際に手を動かした人も本意ではない面もあったのかも…と複雑な心境にいました」。制作業界でも、その人のポジションや関わり方でどこまで意見を言えるかが変わってくるというのがしぐさんの見解です。

クリエイティブな現場では、有名なクリエイターを除くと、受注側が”下に見られてしまう傾向”があるのも理由ではないかと言い、「常に新しい感性が求められる新陳代謝の早い業界です。ここ最近はかなり改善してきましたが、以前は激務だったため、 中間層の多くが既に業界を去っていますし、交渉術やその他の知識を蓄積したベテラン勢が生き残りづらい。そういう面が他業種より少しだけ顕著かもしれません」。

ただ、年齢問わずクリエイターとしては「根底にあるものはみんな同じ。“良いものを作りたい”です」としながらも、「大きな組織で仕事をしてきたので、声を上げにくい場面、そして声を上げるということすら思いつかない人々も見てきました。役職なしの会社員の場合は、ほぼどうにもできない場面が多いと思いますし、知識が追いついていないこともありえます。また、外注としてジョインした場合などは下請け構造の度合いによって、日本古来からの商慣習でなかなか口を出せない現状もあります。最近はかなり減ったとは言え、まだ色濃く残っている場面もあるでしょうね」。

仕事を請ける請けないを個人で判断できるフリーランスの立場で、こういう状況に遭遇したら「進言」し、進言が通らなければ「辞退」を選べますが、今後の仕事への影響を考えて先方からの要望を受け入れるフリーランスもいることでしょう。会社員であれば中には上司に対して断る選択肢を選べない厳しい環境の人もいるのではないかと思われます。

現場側の法への知識不足が問題

今回の当該問題をあいかわらず“問題ない”と認識する意見もあったなか、「正しい法的知識をお持ちの方が“著作権ではなく、不競法が適用だろう”とフォローリプしてくださったのはありがたかったです」としぐさん。

「著作権法は今でこそ少しは知られてきましたが、不正競争防止法における形態模倣の禁止は1993年に制定されてから30年近く経ってもまだ知らない人も。他業種の方がそれぞれの法的な必要知識を勉強して業務を行っているのに比べて、当人が業務自体に忙殺されたり、気づいていなかったりするのも問題。もちろん、知見を持った方もいます。が、全体で見れば多くはないかもしれません」。

そのため発注側だけでなく、受注側の知識や意識の欠如によって言われるがまま仕事してしまうのも問題だと言います。「あくまでも私の知っている小さな世界での話ですが、個人事業主や零細企業の小さな仕事、大きな会社での予算も大きなビッグプロジェクトに至るまで、こういう“手落ち”がなくなっていないことはちょっと悲しいです」。決してこういった状況は珍しくないそう。

長引く不景気の煽りを広告業界も受けるだろうと考えるしぐさんは「私が伝えようとした広告業界内の問題点が伝わりきっておらず、立場や見方によっては解釈があらぬ方向へ行ってしまうとも感じ、これがネットの怖さだなとも。発信内容に気を配る必要があると思いました」と語りつつも、「海外のようにデザイナーはじめクリエイターたちの地位向上が進んでいないのは憂慮しています。クリエイターの地位向上を狙うためにもこうやって『知ることの大切さ』を草の根から発信するつもり」と今後もSNSで積極的に発信する意向。

広告業界を目指す若手が情報商材やデマ情報に振り回されることがないように、業界のリアルを伝えていくとのことです。

■しぐさん Twitter @sigmabi

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