自宅に「湿地帯」を作る!? 生き物好きな人におすすめ「湿地帯ビオトープ」の入門書が話題

松田 義人 松田 義人

これまでにあまり聞き慣れなかったジャンルの本を見つけました。

「湿地帯ビオトープ」というものの入門書で、その内容を覗いてみると自宅の庭などに、湿地帯を作り、そこで育つ生物を学び愛でる人に向けたコンテンツが掲載されています。『自宅で湿地帯ビオトープ!生物多様性を守る水辺づくり』(中島淳・著、大童澄瞳・イラスト、大和書房)という本です。

門外漢の筆者には、何が何やらサッパリなのですが、本書を刊行した出版社によると「売れ行き好調」とのこと。注目を集める湿地帯ビオトープについて、本書を転載しながら、同出版社の担当編集者にも話を聞きつつ迫ります。

「ビオトープ」とは何か。「湿地帯」とは?

「湿地帯ビオトープ」と聞き、「湿地帯」はなんとなく想像できる一方、「ビオトープ」というワードの意味がわかりません。この点について、本書では冒頭でしっかり定義づけています。

ビオトープとはドイツ語のbiotopのことで、もともとはギリシア語で命(bio)のある場所(topos)、つまり「生き物の生息場」という意味です。このことから、ビオトープというと人工の池をイメージする人が多いかもしれません。しかし、本来の意味では人工や自然を問わず、池に限らず、森も川も海岸も、生き物が生息・生育する場はすべてビオトープです(本書より)

また、知っているつもりの「湿地帯」についても、より詳しく解説しています。

湿地帯とは川や池、干潟や海岸などの身近な水域のことを言います。身近な水域には、様々な動植物が生きています。例えば、トンボやゲンゴロウなどの昆虫類、ヨコエビやサワガニなどの甲殻類、タニシやシジミなどの貝類、ドジョウやメダカなどの魚類、カエルやイモリなどの両生類、カメなどの爬虫類、その他にも、ミミズ類、ウズムシ類、ヒル類、ミズダニ類、鳥類や哺乳類、それからシャジクモ類、蘚苔(せんたい)類、維管束植物などなど、思いつくものを挙げるだけでも、とても生物の多様性が高い場所だということが想像できるかと思います。(本書より)

人間に好都合の生物も、様々な生物との関わりで育っている

これを自宅の庭に作る人がいて、しかも静かに盛り上がっていることに、門外漢の筆者にはまだ理解しがたいのも正直なところでした。しかし、本書を読み進めるうちに「自宅に湿地帯ビオトープを作る」人たちの意識や目的がだんだんわかってきました。

この本で目指す湿地帯ビオトープは、湿地帯に暮らす多様な生物を守ることにつながるビオトープです。多様な生物を守ること、このことを「生物多様性の保全」と言います。<中略>すべての生物は少しずつかかわりあいながら生活しているので、私たちに役にたつ生物だけを抜き出して守ることができません。つまり「生物多様性の保全」が最適解ということになります。<中略>つまり絶滅危惧種を守ることは多様な生物を守ることにつながりますし、一つ一つの環境を守ったり再生したりすることも、そして適切な湿地帯ビオトープを作っていくことも、すべて、私たち自身を含む地球上の多様な生物を守ることにつながっていくということです。(本書より)

人間にとって都合の良い生物だけと付き合おうとしても無理な話で、そういった生物たちはまた、別の生物との関わり合いで生まれるものなので、それらも含めて守り、考えようとするもの。そして、身近な庭などに湿地帯ビオトープを作り、そこで生まれる様々な生物を観察しながら、同時に生物の多様性を守り、考えていこうというSDGs的な観点もあるということです。

生物好きの編集者のアクションが出版化の第一歩に

本書はここまでの、「湿地帯ビオトープが目指すもの」を大前提にしながら、「自宅での湿地帯ビオトープの作り方」、「自宅での湿地帯ビオトープの実践例」、「自治体所有エリアにおける最強の湿地帯ビオトープ」、「湿地帯ビオトープで生まれる生き物図鑑」など、あらゆる角度から湿地帯ビオトープに迫り、そして実践する一冊になっています。

読み進めていくと、自宅に湿地帯ビオトープを作る意義と楽しさがわかり、門外漢の筆者も「なかなか面白そうだな」と思うようになりました。本書刊行に至った経緯について担当編集者に聞きました。

「もともと私がツイッターで生き物好きの方々を多くフォローしていました。ある日、『映像研には手を出すな!』作者の大童澄瞳さんが、『自宅のビオトープで稀少なヤマアカガエルが産卵した』とツイートされていたのを見て、大童さんに、『庭のビオトープについて本を書きませんか』と依頼したのが始まりでした。

そのとき、大童さんから『テーマに関心はあるものの、本を書くだけの知識と時間がありません』とお断りされてしまいましたが、後日、大童さんから一通のメールをいただきました。なんと、『ツイッターでオイカワ丸さんが自宅ビオトープの本を書きたいとツイートしてますよ』とご報告してくださったのです。

オイカワ丸さんは水生生物の研究や自然環境・生物多様性の保全活動を続けている、その道ではかなり有名で信頼もされている方です。もちろん私もツイッターでフォローしていたので、『ぜひうちから出させてほしい』とすぐに連絡をし、大童先生にもご協力いただき、企画が実現しました」(担当編集者)

今まで見過ごしていた自然に目が向くようになる

担当編集者のアクションが次々につながっていき刊行に至ったとのことですが、制作中は楽しさの連続だったことが担当編集者の言葉から伝わってきます。

「制作中は、オイカワ丸さんの豊富な知見と経験が詰まった原稿が少しずつ届くことを楽しみに待ちつつ、大童さんの絵が仕上がることにも興奮しつつと、とても刺激的な日々でした。『自宅で湿地帯ビオトープ』と聞いてもピンとこない人が多いかもしれません。『うちの自宅ではそんなことできない』と思う人もいるかもしれません。

しかし、この本は、実際にはビオトープをつくらないとしても、十分楽しめるものになっています。この本を読めば、今まで気づかずに見過ごしていた、案外近くにある自然環境、そして植物、動物に目がいくようになり、まるで町中が自分の庭のように愛おしく思えてくるはずです。身近なものを題材にわかりやすい文章で書かれているので、SDGsや環境問題を学び考えるための、はじめの教科書としてもピッタリの一冊に仕上がりました」(担当編集者)

本書はあらゆる角度から湿地帯ビオトープに迫っただけでなく、著者のオイカワ丸さん、大童澄瞳さん、そして担当編集者のアツい思いが詰まった一冊でもあるようです。ぜひ本書を手にとっていただき、文字通り湿地帯ビオトープの「沼」にハマってみるのも楽しいかもしれませんよ。

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