新種の寄生虫?ワンちゃんの水飲み器で見つけた謎の生きもの 顕微鏡で見ると卵がびっしり

小宮 みぎわ 小宮 みぎわ

11月半ば、日に日に寒くなってきていたある朝。Aさんはいつものようにトイプードルのこうちゃんの飲み水を入れ替えるため、器を取りあげたところ、器の水の中におかしなものが入っているのに気づきました。髪の毛くらいの細さの「らせん状のもの」が入っているのを見つけたのです。

…こうちゃんに寄生している「寄生虫」かも知れない!

獣医師の私に連絡が入りました。「一度診ていただけませんか?」

私は寄生虫を見るのは嫌いじゃないので、何だろう…とむしろワクワクしながらいろいろ想像しました。細長い虫となると「線虫」の仲間だと考えられました。犬の水飲み器にいた虫…となると、犬の口腔内や胃・気管などに住む線虫が、犬が嘔吐したときに口から出てきて水飲み器に入ったのでは…などなど、いろいろな可能性を考えました。しかし、犬の口腔内、胃、気管にすむ線虫はいくつかありましたが、Aさんがおっしゃっているような姿ではありません。

Aさんはきちんと小瓶に水を満たして「謎の寄生虫」を入れ、診察に来られました。

顕微鏡で見ると、細長い「からだ」には、確かに「卵」らしきものがぎっちり詰まっていました。もしかするとこれは虫の身体の一部?…とすると端には「頭」あるいは「尾」があるはずでした。ところが、両端ともプツッと切れていて何もありませんでした。

さらに詳しくお聴きすると、Aさんはこうちゃん以外にミシシッピアカミミガメを飼っておられて、そのカメちゃんの住処はこうちゃんの水飲み場の1メートル横に設置してあるとのことでした。カメは寄生虫がいくつか確認される生き物なので、もしかしたらカメの寄生虫なのかもしれない???

…いずれにしても私にはわからない寄生虫だったので、大学の「寄生虫学教室」に謎の物体を送って調べていただくことにしました。

もしかしたら「新種の寄生虫」だったりして!…などど思いながら送った翌日には、大学よりメールがありました。メールを開くと…。

「こんにちは、〇〇大学の〇〇と申します。お送りいただきましたサンプルを拝見いたしました。寄生虫ではなく、ユスリカ(昆虫)の卵でした。犬の水飲み器に入っていたということですが、仮にこの卵を犬が飲みこんだとしても、害はないので大丈夫です」

えっっ?なんだぁ、「びわこ虫」の卵かぁ…。

ユスリカの成虫は琵琶湖周辺でよく見かけられ、別名「びわこ虫」と呼ばれています。人間の血を吸う蚊に似ているけれども、それよりも大型で、血は吸わずユラユラしている、か弱い虫です。2022年の晩秋は、琵琶湖で大量発生したことがニュースになっていました。

   ◇   ◇

ユスリカの成虫は口がありません。消化器も退化しています。成虫になってからは何も食べません。食べられません。つまり、成虫になった後はすぐに交尾してすぐに産卵をし、長くても数日で死んでしまう生き物です。

幼虫のときは口も消化管もあり、水中で泥や有機物を食べて成長して、成虫となると水中から出ていきます。そのため幼虫は水質を改善するはたらきも担っているようです。また、幼虫は魚のエサに、成虫は鳥などのエサにもなり、琵琶湖生態系の一部を担っている大事な生き物です。幼虫は、アカムシと呼ばれて釣り餌や観賞用魚の生餌に使われます。

しかし、ユスリカ成虫は街灯の下などに大量に集まり、人に不快感を与えることもあります。ただし殺虫剤で駆除を行っても、次から次へと飛来しますし、そもそも寿命が非常に短いためあまり効果的とは言えません。むしろ、殺虫剤による環境汚染が心配になります。滋賀県のホームページには、「湖や池などからユスリカの成虫が発生することは、特別なことではありません。どれだけ多くても発生時期が過ぎるといなくなるので、琵琶湖における季節の風物詩だと思って温かく見守ってあげてください」とありました。

こうちゃんの水飲み器に産卵したユスリカのことを考えると、胸が痛くなります。もちろん、こうちゃんには迷惑なお話ですが、ユスリカも交尾してどこかに産卵しなくちゃいけないときに、うっかり家の中に入ってしまって…。家の中は虫にとってはトラップだらけで出ることができません。出られない、水溜まりも無い…そんな絶望的な状態の中、きっとユスリカ母さんはやむなく水飲み器にあった水に産卵して絶命したのでしょう。

そう思うと、家の中で虫を見つけたときは、出来るだけ外に逃がしてあげたいと思っている今日この頃です。

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