4月から放送が始まったNHK連続テレビ小説「らんまん」。主人公のモデルは高知県出身の植物学者・牧野富太郎博士とあって、舞台の高知も大盛り上がり。視聴率は“48%”とも言われています。
ご当地ドラマといえば、気になるのが方言。土佐弁が飛び交う「らんまん」を高知県民はどう見ているのでしょうか。自身も朝ドラウォッチャーのココハレ編集部員が聞きました。
高知市で100人に聞きました
「らんまん」の初回平均世帯視聴率(総合テレビ)は、関東地区で16.1%、関西地区で13.9%。高知地区は25.9%でした。
さすがご当地ドラマという数字ですが、今は録画で見る人も多い時代。もっと多くの高知県民が見ているのでは?
高知新聞の記者が街頭調査で聞くと、100人中48人が「見ている」と答えました。つまり、高知の視聴率は“48%”。こちらの方が、実感に近い数字です。
街頭で聞かれたのが「土佐弁うまいね」の声。「子役の土佐弁が上手」「松坂慶子さんのはちきんっぷりが上手」と好評でした。「はちきん」は土佐弁で「男勝りの女性」を表す言葉です。
「龍馬伝」ほど誇張されず、今の言葉に近い土佐弁
「らんまん」のロケは2022年から、高知県内各地で行われてきました。主役の槙野万太郎を演じる神木隆之介さんも参加。10月のロケでは土佐弁に苦戦していたようで、方言指導者とやりとりしながら、「新種じゃないかえ?」「ついちゅう」と何度も練習している姿が見られました。
「らんまん」の土佐弁について高知県民に聞くと、「違和感があまりない」という反応がほとんどでした。
30代男性は「今僕らが話している土佐弁に近い感じ。変に意識せずに、物語に集中できる」。30代女性は「違和感、ないです。なんならお上手だと思います」。
70代女性は「『らんまん』の土佐弁はわざとらしくない」。2010年に放送された大河ドラマ「龍馬伝」の時は気になったそう。「『○○ながぜよ』とか、かなり誇張されてましたよね」と話していました。
県外人には関係ない?「ちゅう」と「ゆう」の使い分け
土佐弁の特徴の一つが語尾。ネズミのような「ちゅう」が有名です。「ちゅう」を付けたら土佐弁っぽくなりますが、何でも「ちゅう」を付けたらいいというものではなく、大事なのが「ゆう」との使い分けです。
土佐弁には英語の進行形と完了形がある、と言われます。例えば「雨が降る」の土佐弁表現がこちら。
・雨が降りゆう…今、雨が降っている。現在進行形
・雨が降っちゅう…雨が少し前に降っていて、今はやんでいる。現在完了形
・雨が降りよった…雨が降っていた。過去形
現在進行形は「走りゆう」「食べゆう」など「ゆう」が多いですが、「怒っている」は「怒りゆう」でも「怒っちゅう」でもOK。説明が難しい…。
40代女性は「県外の方は正直、どっちでもいいですよね」。「何でも『ちゅう』『ちゅう』だと気になりますが、『らんまん』には『ゆう』もちゃんと出てくるので、ほどよい感じ」と話していました。
多くの高知県民がずっこけた?!「あんただからやき」
おおむね好評の土佐弁ですが、多くの人がツッコミを入れたのが竹雄のせりふでした。
第3週「ジョウロホトトギス」では、青年となった万太郎が、峰屋の番頭の息子・竹雄とともに上京します。
東京で憧れの植物学者に会ってテンションが上がる万太郎を、竹雄が「こんなのは遊びですき」といさめます。その時に、「大切なあなただから言うんですよ」という意味で言ったせりふがこちら。
「あんただからやき!」
30代女性は「テレビを見てて、『それはイケてないわ~』と。志尊淳さんに言わせちゃダメ」。土佐弁の「やき」を強調で使ったと思われますが、「やき」には「だから」という意味があるので、「あなただからだから!」と聞こえてしまいます。
では、「あんただからやき!」を言い換えると?別の30代女性は「おんしやきよや!とか?」。
「おんし」は「あなた」の意味。「やき」は「だから」で、「よや」は強調の語尾。訳すと、「あなただからだよ!」。
「高知県民には意味は通るけど、県外の人には全然意味が分からないですよね」。確かに、マニアック過ぎる土佐弁です。
じっとしていない子どもへの常とう句・ろいろい
一方で、第3週の竹雄には、高知県民になじみのあるせりふもありました。別の場面で、浮つく万太郎をたしなめる時に使われた「ろいろいしないで」という土佐弁。
「ろいろいする」には「うろうろする」「右往左往する」という意味があります。
よく使われるのがこちら。
・ろいろいせんと、じっと座っちょきなさい!…うろうろしないで、ちゃんと座っていなさい
「すごい、朝ドラで『ろいろい』を使ってくれるのかー!」「昔、親によく叱られたの思い出した」とSNSでも歓喜の声が上がりました。
土佐弁のイントネーションは関西弁っぽく聞こえますが、かなり独特。主役の神木さんが苦労していたように、高知県民が聞いても違和感なく話すのはかなり難しいと思われます。
50代男性は「今の自分たちが聞いたら違うところもあるけど、江戸時代から明治時代にかけて、当時の人がどう話していたかは誰も分かりませんよね」。
多少気になる点はありつつ、土佐弁に気を取られることなく物語を楽しめているという人が大半でした。「物語がちゃんと面白い」というのもその一因のようです。
ちなみに、「らんまん」には万太郎の母役に広末涼子さん、峰屋の女中役に中村里帆さん、「民権ばあさん」こと楠野喜江役に島崎和歌子さんと、高知県出身の俳優が登場しました。今後、呉服商の主人役で演歌歌手の三山ひろしさん、手代役で声優の小野大輔さんも出演予定です。
ネイティブの土佐弁をぜひ味わってみてください!