【きょうだい児って?④】親亡き後、施設に入れる申し訳なさ 50歳の障害者の弟がいる女性 「好きに食べたり出掛けたりできなくなる」

きょうだい児って?

山脇 未菜美 山脇 未菜美

会社員のユリ(54)=仮名=には、重度障害のある弟(50)がいます。てんかんに精神障害を併発していて知能は2、3歳レベル。どこまで何を理解しているのかつかめません。ユリのように、兄弟姉妹に障害者がいる人を「きょうだい児」といい、人知れず悩みを抱えています。弟の世話をしてきた母は7年前に他界。ユリは悩んだ末に、施設に入ってもらいました。「好きに食べたり出掛けたりできなくなりました。人生を変えてしまったという意味で、申し訳なさはずっとあります」。ユリの言葉に苦悩がにじみます。

 弟を介護した母が死んだ

弟は、生まれてすぐ、脳機能障害がある「てんかん」と診断された。簡単な単語は言えるが、トイレやお風呂など一人で日常生活を送ることは難しかった。母は自分の元で育てたい気持ちが強い人だった。福祉作業所まで毎日送り迎え。いつしか両親は離婚。ユリ自身は結婚しておらず、実家で3人暮らしだった。

母が折に触れて言った言葉がある。「私が亡くなったら弟は施設に入れて。どこでも入れるから」。簡単に入れるの?と少し疑問を持つくらいで、実感が湧かなかった。

弟を施設に入れるか、私が仕事を辞めるか

2014年、母が倒れて、肝硬変で入院。おのずとユリが、弟を見なければならなくなった。仕事もあり、家にいられない。初めて福祉施設に宿泊するショートステイに預けた。最初は送迎車に素直に乗ってくれたが、施設ではご飯を残した。その後は、家を出ようとしなかったり、車に乗らなかったり。「行くのが嫌なの?」と聞いても返事がなく、何を思っているかが分からない。「40年ずっと家にいて、突然どこかに連れて行かれたら驚きますよね。寂しいとか意思が分かればいいのですが…。私もつらかった」と振り返る。

その2年後、母が亡くなってからは、悲しむ間もなく弟の今後で悩んだ。日中にヘルパーに来てもらって働くことも考えたが、仕事は長時間に及ぶ。介護での時短勤務も広がっていない。仕事を辞めて家で見るか、施設に入ってもらうか。極端な選択肢しかなかった。

そんな時、同じ体験をした、きょうだい児のグループに加わり打ち明けた。みんな揃ってこう言った。自分の暮らしを大切にするためにも、施設を探して入れた方がいい!ただ、すぐに入れる施設はなく、ようやく見つけた場所は車で2時間ほどかかる場所だった。

32個のプリン、毎月差し入れ

施設に入ってからは月2回、会い行った。

朝、昼、晩とバランスの取れた規則正しい食生活。70キロあった弟の体重はみるみる減り、50キロ台に。痩せていくのが心配で、訪れるたびいくつものスナック菓子を袋に入れて差し入れ、外食に連れて行っては食べさせた。コロナ禍に入ってからは面会禁止となり、その間、弟は脳内出血で一時入院。刻み食になり、筋力が落ちて脚も細くなった。少しでも元気になってもらいたい。ユリはそんな思いで毎月、32個入りのプリンを送る。

会えなくなり3年―。

今は弟の障害基礎年金を管理しながら、2、3カ月に1度、オンラインで面会している。施設の人が弟に「お姉ちゃんだよ」とカメラを見せるが、やっぱり反応はない。数週間前、弟は施設内で転んで、大たい骨を骨折。肺炎も併発して、入院することになった。

ユリは、ふと考える。若いうちに施設で慣れて暮らすのと、40代で施設に入るのと、弟にとってどちらがよかったのか。

「家で診たとしても、共倒れになる可能性もある。今の生活があるのは、弟に施設で生活してもらっているからですし…。意外と、弟は何も思っていないのかもしれない。でも、自分だけ楽しいことをしていいのかな、という負い目はあります」。正解がない問題。心に引っ掛かりが、残っている。

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