多種多様な羊毛の美しさを生かそうと、手つむぎ、手編みで物作りに取り組むニットブランド「未未(みび)」が今春、滋賀県彦根市に誕生した。主宰する久米敬子さん(41)は「毛糸やニット製品を通して、羊という生き物や、自然と人間を考えるきっかけになれば」と思いを込める。
10年ほど趣味で編み物をしているうちに、糸を紡ぐことに興味を持った。2021年に体験講習を受講し、原毛の美しさに心が揺さぶられたという。「衣服のタグにはウール100%とだけ書いてありますが、毛糸になる前の羊毛を目にして、こんなに多様だとは知りませんでした。現在、世界にはおよそ千種の羊がいるそうです」
人との関わりの深い生き物であることにも、久米さんは大きな関心を寄せる。野生の羊を家畜化したのは約1万年前と考えられ、乳でチーズを作り、肉を食べ、羊毛は衣類の材料にするなど、さまざまな恵みをもたらしてきた。
羊と人との関係性や、原毛の美しさを紹介したい―。思いが高じて、JT生命誌研究館の研究員を23年2月に辞し、まもなくブランドを立ち上げた。扱うのは国内外の原毛で、滋賀の牧場で暮らす羊の毛も含まれる。刈り取られたままの原毛は、久米さん自らが洗い、毛をほぐした後、糸を紡ぐ。脱色や染色はせず、オリジナルの色をそのまま使う。
編むことが大好きな人たちの協力も得て、帽子、ミトン、マフラーなどを制作。メリノ、チェビオットなど羊の種類によって異なる毛の長さや風合いを最大限生かすため、編み方はメリヤス編みのみで、シンプルなデザインを心掛ける。
「白色と言っても、クリーム色、透き通るような色、青みがかった色とそれぞれ異なるし、同じ種類の羊でも、暮らす地域や環境などで毛質は大きく変わる。その一つ一つがとても興味深い」と久米さん。「人の暮らしが、羊という生き物に支えられてきたことを実感できるものづくりをしたい」と話す。