コートを着てはいけない、地毛を黒く染めるよう要求…問題視される「ブラック校則」、生徒にどんな影響与える?

宍道 香穂 宍道 香穂

 制服の上からコートを着てはいけない、地毛の色が明るい生徒に黒く染髪するよう要求するといった理不尽な校則は「ブラック校則」と呼ばれ、問題視されるようになってきた。ブラック校則が生徒に与える影響と改善策について識者に聞いた。

▽「民主的でない」従来の校則

 「下着の色は白のみ」、寒くても「コートを着てはいけない」―。理由が不明瞭で、社会一般の感覚とずれているばかりか、理不尽ともいえる「ブラック校則」がこのところ、全国各地で物議を醸している。

 校則として明文化されていないものでも、暗黙のルールがあるようだ。島根県内の学校では「長袖カッターシャツの襟を折ってはいけない」「靴下は白のみ」といった決まりがあるという。同じように運動部でも「部活動中は水道水を飲んではいけない」など、理不尽な決まりがあるようだ。

 「ブラック校則」は生徒にどのような影響を与えるのか。島根大教育学部の津多成輔(せいすけ)講師(教育社会学)に話を聞いた。

 多くの学校において校則は生徒の安全や健全な発達のために、学校側が生徒を管理するという意義のもとに制定、行使されてきたと考えられる。津多講師は従来の校則の在り方について「権力関係の下に行使されるという管理主義的な構図。民主的でない」と指摘した。「ルールを守る主体である生徒が、ルール作りに参加していない。一方が決めて守れと言うと『なんでだ』と反発が起こる」と生徒と校則を守らせようとする学校側が対立する理由を示した。

 厳しいルールや指導で一時的に決まりを守らせる仕組みは、疑問や不満を生みやすく、生徒は校則の意図を理解しにくくなる。津多講師は「(身だしなみの荒れなどが)短期的には解決するかもしれないが、中長期的に見ると良くない」と、マイナス面があると説明した。

 一般社会の常識からずれた、理不尽な校則を押しつけることで、生徒に精神的苦痛を与える恐れもある。
 元々の髪の毛が茶色の生徒に、髪を黒く染めるよう要求するケースについて津多講師は「生まれ持った髪の色を間違っていると言われているように感じたり、人間的な権利を阻害されていると感じたりすることもあるのでは」と懸念する。多様な見た目、価値観を持った人たちが共生する社会を想定し「今後、髪の毛の色が黒ではない子たちも増えるかもしれない。LGBTQ(性的マイノリティー)の生徒については、特定のデザインの制服しか着用を認められないことに屈辱を感じる場合もあるだろう」とした。

 津多講師は「校則にどのような意義があるかというのは、時代や社会背景によって規定される」とした上で「権利を守ることをベースに考え、理不尽な校則に対し声を上げる人が増えたのでは」と、近年「ブラック校則」の問題が可視化された経緯を推測した。

▽山陰両県の対応は?

 2022年12月、文科省は「生徒指導提要」を12年ぶりに改訂した。実はこの中に「校則」の項目があり、校則を絶えず見直すこと▽制定した背景を明示すること▽生徒が議論する場を設けること―などを勧めている。

 これまでの校則の在り方を見直し、時代や生徒の実態に即したルールづくりが求められている。山陰両県の教育現場ではどのような取り組みがなされているのか、関係者に聞いた。

 島根県教委教育指導課の新田晃久調整監は今後の校則の在り方について「各学校の教育目的と照らし合わせ、絶えず見直しをする必要がある」と話した。
 同課の登城智宏企画幹は「理由がある校則ならば、生徒や保護者が納得する形で説明が必要。単にルールだけが残り、決まりだからと押しつけている状態であれば、しかるべきプロセスを踏んで変えていくのが望ましい」とした。

 鳥取県教委はより積極的に取り組んでいる。文科省が指導提要を改訂する前から、県立校長会や生徒指導部連盟会で関係者に向け、校則を絶えず確認して見直すよう求めた。また、生徒が校則について考える時間を設けるよう求め、主体性の向上を図っている。

 早い時期から取り組みを続けているためか、校則に生徒の意見を反映させようとする動きが全県的に見られるという。
 米子工業高(米子市博労町)では2022年4月、生徒の意見を踏まえた校則改定が実現した。生徒会のメンバーが全校生徒に、校則についてのアンケートを実施し、生徒指導部に「意見要望書」を提出。職員会議を経て校則が一部、改定された。スマートフォンやパソコンといったICT端末を活用した授業があることから、校内での端末の使用制限を緩和することが認められた。
 頭髪のサイドを刈り上げた「ツーブロック」を禁止する校則についても改定を求める声が上がり、表記を「極端な段差がある髪型を禁止」と変更した。
 山陰両県でも、校則をより身近なものとして捉え、時代に合ったものへと見直す動きが出ている。

▽「校則見直し」積極的に乗り出した県、効果は?

 全国に目を向けてみると、校則について考え、見直しを図る先進事例がある。岐阜県教育委員会は2018年9月、県立高校に対して校則を見直すよう通知した。2019年11月には、校則を各高校のホームページに掲載するよう求めた。
 結果、現在は県立高全63校が校則をホームページに掲載し、生徒が校則について話し合ったり、各学校の運営協議会で校則について関係者に意見を募ったりと、校則の見直しをしやすい仕組みが整ってきている。

 岐阜県学校安全課の大和谷淳(あつし)生徒指導企画幹は「子どもたちや職員が、校則を自分事として考えるようになったと感じる」と話した。校則の見直しや話し合いを通して、生徒や教員が主体的に、校則の意義や在り方を考える動きが見られるという。生徒は校則の見直しや話し合いを通して、自分の学校生活がよりよいものになる過程を学び、実行できるとすれば、とてもいい経験になると思った。

▽当事者が関わり、ルールづくりを

 校則を合理的な形にし、教育環境をより良いものにするにはどうすればいいのだろうか。津多講師は「今ある校則を基準にするのではなく、ゼロベースで決まりを作り直してもいいのでは」と提案した。前例だからと言って、そのまま踏襲せずに、ゼロの状態から組み立て直すと「本当に必要な校則」だけが残るかもしれないという。

 校則に関わる全員が主体的にルール作りに関わることも重要という。「変えていこうという動きがあるものについては、生徒や保護者、地域の人などがともに考え、意見を申し立てる。もちろん先生たちも1アクターであることに変わりはないので(話し合いなどに)参加する。校則に関わるすべての人がともに考え、ルールを作っていくことが重要なのでは」(津多講師)と、多くの人が関わって一緒に考える取り組みを重視した。話し合いの中で、問題点が整理され、共通理解が生まれてくるように思う。

 「ルールだから」と深く考えず、決まりを押しつけたり受け入れたりするのではなく、疑問を感じたら意見を述べるなど行動を起こす。既存のルールを自分事として捉え、考えるという主体性は学校に限らず、これからの社会で暮らしていく上でも大切なことだと感じた。

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