「浦島太郎」「桃太郎」「さるかに合戦」「金太郎」。ご存知の通り、日本を代表する昔話ですが、海外のものも含めると、多数の昔話が存在します。ここでふと疑問に感じるのが「女の子が主人公の昔話」が、極端に少ないことです。「かぐや姫」「鶴の恩返し」といった話はあるにしても、男の子が主人公のそれに比べると、圧倒的に少なく感じます。
そんな視点に立って刊行されたのが、「世界の女の子の昔話」(中脇初枝・再話、うえのあお・絵 偕成社)です。
女性が主人公となり活躍する昔話が少なかった理由とは?
「三姉妹の末っこの女の子が困難を乗り越えて幸せになる」チリの昔話、「女神が貧しい少女に変身し、金持ちの家・貧しい家の双方に出向きその対応を見ながら『困ったときはお互いさまである』ことを伝える」ハワイの昔話、「ある女の子にふりかかった困難を友達同士で助け合い明るく乗り越える」ハイチの昔話といったものから、「一見変わり者に映る女の子が実は本質をついていて、その知恵の力で幸せを掴む」スペインの昔話や、「男性の美しさを賞賛しながら、醜い女の子が醜いままでも幸せになれる」カメルーンの昔話など、実にさまざまなものが収録されています。
いずれの作品も道徳的である一方、その展開や結末は良い意味で「日本的ではない」ものも多く、大人でも興味深く読むことができます。こういった世界中の「女の子が主人公の昔話」ばかりを収録した本書、どういった経緯・思いから企画し、刊行したのでしょうか。再話した中脇初枝さん、担当編集者に聞きました。
「あまり知られていないだけで、実は女性が主人公となり活躍する昔話は、日本にはもちろん、世界各地に伝えられてきました。ただ、これまでは、日本だけでなく世界的な傾向として、男性が昔話の研究や出版の場で多数を占め、中心となって意思決定をしてきたということもあり、『女性が主人公として活躍する昔話』が絵本になったり、教科書に載ったりすることが少なく、広く知られないままになってきました。
また、これまでによく知られてきた昔話は辛い目にあってもおとなしく耐え、やがて王子に助けられる若くて美しい女性だったり、意地悪で悪い役回りの高齢の女性だったりと、登場する女性が決まった役割を演じることが多いものでした。けれども、語りつがれてきた昔話には、もっとさまざまな女性が登場します。物語の結末も、結婚だけでなく、大金持ちになったとか、一人で安楽に暮らしたなど、さまざまです。そんな昔話における女性主人公の多様な姿を知ってほしいと思い再話しました」(中脇さん)
「遠く離れた国でよく似たお話がつたえられていたり、勧善懲悪ではなく、なまけ者やずるいことをする女の子がそのまま幸せになったりと、昔話の奥深さ、多彩さを楽しんでいただける本です」(担当編集者)
企画から11年かけて完成した一冊
同書には18話が収録されていますが、これまで知られてこなかったものばかりなので、ここに絞り込むまでには相当な苦労があったのではないかと思われます。この点についても聞きました。
「改めて膨大な昔話資料にあたりましたが、言語と文化の壁がありますし、昔話の研究が進んでいる国も、進んでいない国もあり、選ぶのが大変でした。そして、原話に立ち返るにあたってはその国の出身の方々や、その言語や文化を研究されている方々のお力を借りました。その国の方や研究者のみなさんにうかがって初めて知って、驚くことも多かったです」(中脇さん)
「さまざまな地域、さまざまな文化の昔話なので、絵を描くのも大変だったと思います。どんな服装か、道具か、家か、動植物か、などできるだけ資料をあつめ、イラストレーターのうえのあおさんも細かいところまで調べたうえでイメージをふくらませ、ぴったりの絵を描いてくれました。企画をしてから11年を要しましたが、やっと刊行できました」(担当編集者)
「昔話の主人公たちの多様な生きざまは、悩みながら生きるわたしたち––––それは女性だけでなく、男性をも––––励ましてくれます。ぜひ読んでいただければと思います」(中脇さん)